病み患いのモトを断つ

米で注目の研究結果 高齢者の血圧下げ過ぎは認知症を招く

薬の過剰投与の影響か
薬の過剰投与の影響か

 高い血圧は、しっかり下げるべきだ――。高血圧治療のセオリーを揺るがすような研究結果が発表され、話題を呼んでいる。どういうことか。聖マリアンナ医大神経内科・元准教授で、「米山医院」院長の米山公啓氏に聞いた。

 米ジョンズ・ホプキンス大の研究チームは、米国の男女4761人を24年にわたって追跡。その間に5回の血圧を測定。主に血圧の変化と認知症の関係を分析している。

 今年8月に医学誌「JAMA」に発表された論文によると、1回目の血圧測定は1987~89年で、当時44~66歳の男女だ。それから3年ごとに3回測定し、その結果を「中年期の血圧」と定義した。4回目の測定から15年後の2011~13年に最後の測定を行い、「高年期の血圧」と定義。「中年期の血圧」と比較している。

 今回の研究では、140/90㎜Hg以上が高血圧、90/60未満が低血圧、その間が正常血圧で、対象者を5グループに分類した。

①中年期から正常血圧(正常→正常) 833人

②中年期は正常血圧→高年期は高血圧(正常→高血圧) 1559人

③中年期から高血圧(高血圧→高血圧) 1030人

④中年期は正常血圧→高年期は低血圧(正常→低血圧)  927人

⑤中年期は高血圧→高年期は低血圧(高血圧→低血圧)  389人

■薬の過剰投与が影響か

 5回目の血圧測定時と2016~17年の2回、認知機能検査を行ったところ、4761人のうち516人が認知症を発症。5グループごとに100人当たりの認知症発症率を計算すると、①1・31人②1・99人③2・83人④2・07人⑤4・26人で、③の高血圧→高血圧より、⑤の高血圧→低血圧の方が認知症になりやすかったのだ。

「低血圧を90/60未満と定義していますが、高血圧の治療でそこまで下がることは通常、ありえません。しかし、中年期の高血圧で動脈硬化が進んだ人が、降圧薬の効き過ぎなどで血圧が下がり過ぎると、脳の血流が不足し、神経細胞への酸素供給が滞るため、脳の機能は低下する。微小な血管には、脳梗塞も起こしやすい。今回の研究結果は、そんな影響を反映している可能性はあるでしょう」

 ⑤の人は、95・9%が降圧剤を服用していて、3剤併用が最多の44%だから、薬の効き過ぎが見て取れる。

「血圧は日内変動し、朝から昼にかけて高くなって夜間に下がります。その幅も問題で、高齢者だと朝は上(収縮期)の血圧が150前後あっても、寝る前は100を切ることがある。100を下回るのは下がり過ぎ。家庭用血圧計でこまめに血圧を測定し、上の血圧が110を下回らない程度になるように薬を調節することが大切です」

 動脈硬化が、心筋梗塞や脳卒中を招くことは変わらない。上の血圧が140を超えたら、生活改善とともに適切な降圧剤で血圧を下げることは、これまで通り必要だという。

「アルツハイマー型認知症予防で、高齢者の血圧コントロールは緩やかに、というのは国際的に認められつつあります。日本でそれを証明する研究結果はまだありませんが、今後は国際的な流れに沿うでしょう」

 自宅に血圧計がない人は、まず血圧計を購入すること。それで血圧が下がり過ぎていたら、かかりつけ医に相談するのが無難だろう。

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