性感染症最前線

「HTLV-1」国内感染者は108万人以上 夫婦間が多いとされる

母子感染は60~70%
母子感染は60~70%

 白血病・リンパ腫の一種で「成人T細胞白血病(ATL)」という病気がある。原因は、血液中の白血球のひとつであるTリンパ球に感染する「ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV―1)」。

 主な感染経路は母子感染(授乳)だが、性交渉でも感染する場合がある。

 性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が言う。

「国内の感染者は少なくとも108万人とされ、うち母子感染は60~70%、性感染は20~30%程度と推定されています。HTLV―1の感染力は非常に弱く、感染したTリンパ球が生きたままの状態で他人の体内に入らないと感染しません。性感染では精液中に含まれる感染リンパ球が原因と考えられ、多くは男性から女性へうつる。だから長期にわたって同じ人との性交渉が続く夫婦間での感染が多いとされます。夫婦間での感染頻度については、明確なデータはありません」

 HTLV―1が体内に入り込むと、排除しようと免疫反応が起こり、HTLV―1に対する抗体が作られる。普通は抗体の働きでウイルスが排除されるが、Tリンパ球に侵入したHTLV―1は、さらに遺伝子の中まで入り込んでしまい、抗体では排除できない。そのため、HTLV―1は侵入したTリンパ球の遺伝子の中で生き続ける「持続感染」の状態になるのだ。

 しかし、HTLV―1に感染しても自覚症状はなく、感染者の約95%は生涯、病気を発症することのない「キャリア」となる。つまり、授乳や性交渉による感染は、キャリアが女性なら子供へ、男性なら妻にうつることが多いのだ。自分がキャリアかどうかは、抗体検査(血液検査)をすれば分かるという。

「1人の感染者が生涯にATLになる確率は約4~5%。それに個人差がありますが、ATLの潜伏期間は40年以上で、40歳以下ではほとんど発症しません。ですから、夫婦間の成人してからの感染でATLを発症したという報告はありません」

 HTLV―1は、まれにだが「HTLV―1関連脊髄症(HAM)」と呼ばれる脊髄の病気や、「HTLV―1関連ぶどう膜炎(HU)」という目の病気も引き起こす。

 HAMになる確率は約0.3%、HUは10万人当たり約110人の発症。この場合は潜伏期間が数年以上で、若い人でも発症する。

「キャリアでも妊娠・出産は可能です。事前に知っていれば、断乳など乳児への感染対策が取れます。子づくりするなら夫婦で抗体検査を受けておいた方がいいでしょう」

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