病気を近づけない体のメンテナンス

【肛門】お尻のかゆみの原因は「拭き残し」か「拭き過ぎ」

 肛門に現れる「かゆみ」「痛み」「血が付く」などの症状。誰もが経験していながら、他人にはなかなか相談できないことだろう。何が原因として考えられ、どんな対処をするといいのか。

「東肛門科胃腸科クリニック」(東京都渋谷区)の東光邦院長が言う。

「肛門がかゆくなる症状を総称して『肛門掻痒症』といいます。一般的にかゆみの原因として最も多いのは、肛門周囲に便が付いているか、あるいは排便後の拭き過ぎによって皮膚炎(かぶれ、ただれ)を起こしてしまうことです」

 肛門の表面も他の皮膚と同じように弱酸性を保っている。そこにアルカリ性の便や粘液が付着していると、皮膚の抵抗力が弱まり皮膚炎を起こしやすくなるのだ。

 だからといって肛門を拭き過ぎるのもよくない。きれいにしようと、強く拭いたり、拭き過ぎたりすると肛門に細かな傷がつき、そこに便が付いてただれてかゆくなる。

 肛門を清潔に保つためには洗浄便座の付いたトイレを使うのがいいが、その際もシャワーの勢いは弱めにして、長く洗わない。ペーパーで拭くときはこすってはいけない。2~3回、押し拭きをする程度にした方がいいという。

「お風呂も毎日入り、肛門をきれいにしておくことが大切ですが、かゆみがあるときはせっけんなどを使うと、かえってただれてしまうことがあるので、お湯だけでさっと洗うのがいいでしょう。また、かゆみが強いときは香辛料の強い食事を取ると、かゆみが増すので避けましょう」

 市販薬を塗るのなら「湿疹の薬」を使う。しかし、配合されている成分の種類によっては、逆に刺激となってかゆみが増す場合もある。2、3日塗っても良くならなければ受診した方がいい。

 排便時に“痛い”と感じたら、肛門上皮や肛門の外側の入り口付近に傷ができたことが考えられる。

 硬くて太い便を無理に出すことによって起こる、いわゆる「切れ痔(裂肛)」だ。この場合もお尻を拭くときは、こすらず押し拭きするようにする。

「基本的には便秘の解消が必要ですが、切れて痛いときは市販の痔の薬(座薬や注入軟膏)を使って様子を見てもらっていいでしょう。また裂肛ではなく、いきみ過ぎなどで肛門の外側に血栓(血豆)ができる『血栓性外痔核』でも痛みを伴うことがあります。この場合もとりあえず座薬や軟膏を使ってもらって、良くならなければ受診してください。大きな血栓は外来で処置をすると、すぐに楽になります」

 肛門は、肛門入り口と直腸粘膜の境目に「歯状線」という部分があり、そこを挟んで奥(直腸側)と外に網の目のように静脈が密集している「静脈叢」がある。この静脈叢がうっ血して大きく膨らむのが「いぼ痔(痔核)」で、奥の静脈叢が膨らむのが「内痔核」、外の静脈叢が膨らんだ状態が「外痔核」だ。

 歯状線より奥(直腸)の傷や出血は痛みを感じないが、歯状線より外は小さい傷でも出血が多く、痛みが強い。この特徴によって、お尻を拭いたときの「血が付く」原因がある程度、見当がつく。

「排便後にペーパーに血が付いていたら、痛みを伴わなければ多くの場合は内痔核のうっ血による出血でしょう。強く拭き過ぎると起こります。痛みを伴うようなら裂肛の可能性があります。ただし、痔核の出血と思っても直腸がんなどの可能性もありますので、『痛みのない出血』は必ず受診してください」

 いずれにしても痔疾患を防ぐには、便秘にならない食事をすることが大切になる。それには食物繊維と水分をしっかり取ること。

 食物繊維には便の量を増やし、腸の運動を活発にする「不溶性」と便を軟らかくする「水溶性」の2種類がある。サラダなどで取れる不溶性の繊維の量は限られてしまうので、食物繊維を多く取るには海藻や里芋など水溶性のものがお薦めという。

「快便の秘訣は、朝食をきちんと食べ、食事の時間を規則正しく取るようにすること。腸の動きは自律神経がコントロールしているので、睡眠をしっかり取ることも大事です。また朝の散歩など適度な運動は、起床後の大腸の働きを刺激して排便を順調に促します」

 いぼ痔の対策は、肛門のうっ血を防ぐこと。長時間の座りっぱなしはやめて、定期的に立って歩くこと。毎日の入浴で肛門を清潔にし、浴槽に漬かって血液循環を良くするように心がけるだけでも痔の予防になるという。

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