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標準治療より優れている?先進医療は最善の治療法なのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「標準治療」という言葉を一度は聞いたことがあるだろう。“標準”という語感から「松竹梅で言えば、中間の竹かな?」と誤解している人が多いかもしれない。「先進医療」についても同じ勘違いが広まっている。

 ――「標準治療」は庶民のための治療であって、政治家やお金持ちはその上の治療を受けられると誤解している人は多い。標準治療の本来の意味とは「科学的根拠に基づき、現在利用できる最良の治療」のこと。呼び方が悪いかもしれないが、一方でがん保険のCMなどでよく聞く「先進医療」は、どことなく病気も早く治るようなイメージがあります。

「先進医療というと、時代の最先端だから今まで治せなかったものが治る、と思っていらっしゃる患者さんは多いですね。先進医療は効果や副作用などを調べる臨床試験で実績が積まれ、それまでの標準治療より優れていることが証明されれば、新たな保険診療の『標準治療』となります。もちろん、ある程度の効果が認められるからこそ厚生労働省に承認され、保険診療との併用も認められて患者さんに使われているのですが、一部には実験的な要素も含まれています」

 ――最新のがん治療薬として承認された薬が、後になって効果が認められないとなるケースもあります。

「数年前にも、当時は最新だともてはやされた肺がんの抗がん剤がありました。効果が高いと言われてこぞって使われましたが、結果的には十分な効果が得られないどころか、お亡くなりになる人も出てきて使用中止になりました。このように、先進医療だからといって、最善の医療とは限らないということを知ってもらいたいと思います」

 ――医療系メディアなどでよく取り上げられる病院ランキングの「手術件数」の多さは、病院のクオリティーに関係がありますか?

「一般論で言えば、手術件数の多い病院は、それに応じた経験があるわけで、質の高い手術が受けられる可能性は高まります。そういう意味では、病院を選ぶ判断基準のひとつにしてもいいかもしれません。ですが、中にはそれを逆手に取り、手術適応にならない危ない症例も手術をして、件数を稼いでいる病院があります。首都圏の人ならば誰もが知っている病院でも、必要とされない心臓カテーテル手術が行われているといった風の噂も聞きます」

 ――「わたし失敗しないので」はドラマだけの世界。病院別の「生存率」ランキングなども度々、週刊誌に取り上げられますが?

「『がんセンター』などの生命予後データが良いのは、患者さんを選んでいるという側面もあります。術後の入院が長期化することが多い糖尿病や心臓病など、他の疾患を併発する患者さんを断れば、結果的に短期間で退院できる患者さんは多くなります」

 こちらはドラマなどでもよく出てくる設定だ。 =つづく

 (構成=稲川美穂子)

中山祐次郎

中山祐次郎

1980年生まれ。鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。現在は福島県郡山市の総合南東北病院に外科医として籍を置き、手術の日々を送る。著書に「医者の本音」(SBクリエイティブ)、小説「泣くな研修医」(幻冬舎)などがある。

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