ドクターXが見分ける いい医者いい病院

むしろ安心?診察中に薬辞典を開く医者は信用できるのか

「ドクターX」大門未知子役の米倉涼子
「ドクターX」大門未知子役の米倉涼子(C)日刊ゲンダイ

 山崎豊子の小説「白い巨塔」で描かれた医学界のピラミッド構造と権力争いは、令和の時代になった今でも繰り広げられている。そんな中、どの「医局」にも属さない中山さんは、ある時は院長の急逝で存続の危機にあった福島原発近くの病院で働くなど、自分の職場は自分で決めてきた。フリーランスの立場だからこそ本音も言える。

 ――診察中、お薬辞典のようなガイドブックをおもむろに開く医者がいます。「おいおい、専門家なのに大丈夫か?」とツッコミたくなります。

「診察室で患者さんのいる前で薬辞典のようなものを開く医者は、安心できる医者です。あれは、格好が悪いですし、患者さんの信頼も失いそうなので、できればやりたくない。ですが、患者さんの前でしていないだけで、どの医師も患者さんが退室された後、ポチポチとスマホで調べたり、薬剤師に電話で確認を取ったりしています。私はむしろ、“わからない”と言えない医者を信用できません。薬は暗記するには到底追いつかない量がありますし、後発薬品も多く名前もそれぞれ違います。薬辞典や薬剤師に聞いたりして効能や副作用などを相互確認する。だから患者さんの目の前で調べたりする医者は、間違いなく、いい医者と言っていいでしょう」

 ――最近は少なくなりましたが、上から目線の医者も見かけます。

「例えば、患者の無知を叱る医者がいます。患者さんの『これは他人にうつったりしますか?』という質問に対し、『そんなことはあるわけない』と答える。医者にとっては常識でも、患者さんにとっては違います」

 ――医者との良好な関係を築く「患者力」という言葉もよく聞きます。いわゆる、アドヒアランス(治療や服薬に対して患者が積極的に関わり、治療を受けること)が良い患者のことです。

「私は患者力という言葉は本質的に好きではありません。それは医療サイド視点の言葉だからです。とは思いつつ、現状は医者は業務過多で、外来は長く待たされて3分診療です。医者のポテンシャルをうまく引き出すため、待ち時間に『どのような症状が』『いつから』『どんな経過で』『一番つらかったのはいつで』『どんな時にその症状は悪くなり』『いま一番困っていること』『医者に聞きたいこと』をメモにしておいたりすると、初めての受診でも医師に症状が伝わりやすくなり、お互いに理解が早まります」

 ――最後に、やはり気になるのは「ドクターX」の大門未知子のような医者がいるかだ。

「病院の治療は難解なことをするのではなく、ある程度はルーティンで決まっていることを、先輩に相談や報告しながら進行していきます。ややこしい症例の場合は、特にみんなで数回にわたってカンファレンス(協議)を開きますので、ひとりの医者が診断して治療を進めることはまずあり得ません」

 病院のスタッフ全体が力を出し合ってスーパー外科医をつくっているようだ。 =おわり

 (構成=稲川美穂子)

中山祐次郎

中山祐次郎

1980年生まれ。鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。現在は福島県郡山市の総合南東北病院に外科医として籍を置き、手術の日々を送る。著書に「医者の本音」(SBクリエイティブ)、小説「泣くな研修医」(幻冬舎)などがある。

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