中高年「偽関節」リスク 家庭での“足をゴン”は甘く見ない

病気にかかりやすくなり慢性疼痛に悩まされる
病気にかかりやすくなり慢性疼痛に悩まされる

 ケガというと屋外でのアクシデントのイメージがあるかもしれない。しかし国民生活センターが2013年に発表した「医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故」によると、20歳以上のケガの7割以上は家庭内だという。タンスやちょっとした段差などに足をぶつけることなどが多いのだ。多少の痛みや腫れも「いずれ引くだろう」と放っておく中高年も多いが注意が必要だ。実はその原因は骨折で、中高年は骨がくっつかずに一生痛みに悩まされる、「偽関節症」のリスクが高いからだ。整形外科専門医で「みずい整形外科医院」(東京・祐天寺)の水井睦院長に聞いた。

「家でのケガが多い理由は、障害物が多いうえに裸足で、しかも気が緩んでいる状態にあるからです。よくあるのは酔っぱらって足をぶつけて骨折するケース。パキッと折れたのならいいのですが、ひびが入ったときなどは痛みがあっても大きく腫れない場合があります。そうなると骨折していても、そうとは考えずに『大したことないだろう』と勝手に判断してケガの治りが遅くなってしまうのです」

 Aさん(男性、66歳)は寝るときに、ベッドの支柱に左足の中指をしたたか打ち付けた。見る見る腫れ上がり、内出血で紫色に。診察は剥離骨折で、すぐにギプスをしたが、なかなか治らずに半年が過ぎた。

「一般的に中高年の骨折は若い頃と違って治りにくいとされます。それは骨が弱いうえに折れた骨を修復する力も弱くなるためです。Aさんも『年のせいで治りが遅いのか』と思っていたそうですが、骨折治療に必要とされる期間が過ぎても骨がくっつかない。改めて検査をしたところ『偽関節』だったことがわかったのです」

 治りづらい骨折は骨折全体の8~10%程度あるといわれ、偽関節はそのひとつ。折れた骨がグラグラしてくっつかずに動いている状態を言う。皮膚から骨が飛び出す開放骨折は細菌感染が起きやすく回復に必要な仮骨ができにくいため、偽関節リスクが高いといわれるが、喫煙、糖尿病、栄養不足もそのリスク要因だとされる。

 そもそも折れた骨がくっつくのは、骨折後、破骨細胞によって不要なものが始末され、骨芽細胞によって新たな骨ができるからだ。

「骨が折れると骨組織が破壊されて骨を覆っている骨膜が切れ、血管も切断されて骨折によって生じた間隙に血腫ができます。この時期は炎症期と呼ばれ、炎症が起きて痛みがあります。ギプスなどで固定してしばらく経つと、骨折した場所に周囲から幼若結合組織細胞が入ってきて骨髄に肉芽組織が形成され、切れてしまった毛細血管も新たに作られて、壊死した細胞が吸収されていきます。やがて軟骨が徐々に形成されて骨折した骨と骨がくっつきます。これを仮骨といいます。この段階が修復期です。仮骨は時間が経つと強度を増し不要なものは破骨細胞により吸収され、骨芽細胞によって新たな骨が形成され(再造成期)、骨は元に戻るのです」

■慢性疼痛に悩まされることに

 治るまでの日数は骨折した場所や年齢によって違うが、おおむね肋骨で約3週間、鎖骨で約4週間、上腕骨で約6週間、大腿骨で約8週間、大腿骨頚部で約12週間といわれている。

「ところが偽関節になると骨が折れた場所(骨折端)が硬化または萎縮して骨折端の間隙が幼若結合組織細胞でなく線維組織により埋められ、骨が再生しなくなるのです」

 骨折が治らず体を動かさない時間が長くなると、足腰の力が弱くなり、手足の関節が硬く動かせなくなったりする。

 それだけでなく、内臓の働きも弱くなり、病気にかかりやすくなる。それが原因で寝たきりになる場合もあるから恐ろしい。しかも偽関節による慢性的な痛みは脳をつくり替えてしまい、ちょっとしたことでも強い痛みを感じるようになってしまう。

 単に骨折の治りが遅い「遷延癒合」と偽関節との判別は「単純X線検査」「CT検査」などで治癒過程を確認したうえで、骨シンチグラフィーで骨折端の代謝能を判定することで行う。骨シンチグラフィーとは、骨に集まる放射性薬剤を静脈投与した後にその薬剤の集積程度を特殊なカメラで撮影して骨の代謝状況を調べる検査のこと。

「一般的に骨折治療を始めて6~8カ月を過ぎても骨がくっつかない場合は偽関節を疑います。治療の基本は手術です。再生機能を失った骨折端を切除して間隙に侵入した線維組織を除去したのちにプレートなどで固定します。場合によっては自家骨移植を併用することもあります。いずれにせよ、大掛かりな治療となります」

 中高年は骨折を甘く見てはいけない。心当たりのある人は整形外科で診察してもらうことだ。

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