骨と筋肉の疑問に答える

下肢の衰えは動作のエンジン役「臀筋」の劣化につながる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【Q】80代の母が座るだけでお尻が痛いと訴えます。どんな病気でしょうか?(50代の孝行息子)

【A】昔、年頃の女性はお尻の大きくて硬い男性と結婚しなさいと言われたものです。それはお尻の筋肉があらゆる動作においてエンジンの役割を果たしており、大きく硬いお尻を持つ男性は精力的によく動く、働き者の男性と考えられていたからです。

 お尻は背骨の下に存在する大きな三角形の骨である「仙骨」と「骨盤」、足の付け根から膝までの太ももの骨である「大腿骨」などを支える大臀筋、中臀筋、小臀筋という3つの筋肉からできています。こうした臀筋群のおかげで歩いたり、立ち上がったり、足を回転させたり、体の方向を変えたりできるのです。

 ご質問者のお母さんは、この臀筋群の筋量が落ちた状態なのでしょう。専門的には筋肉が痩せる(筋量が減る)ことを筋萎縮と言います。筋が萎縮すると筋力も低下し、今までできていたことができにくくなります。筋萎縮には筋肉自体が病気による場合(筋原性筋萎縮)と、筋肉に「動きなさい」と直接伝えている運動神経の障害による場合(神経原性筋萎縮)の2通りがあります。それぞれの場合で筋肉の落ち方に特徴があり、前者は近位筋といって二の腕から肩、腰回り、太ももなどの筋肉から落ちていきます。後者は手や足など体から遠い、遠位筋と呼ばれる筋肉の量が減っていきます。

 筋肉の病気で有名なのは筋ジストロフィーです。ほかに皮膚筋炎などの炎症性の病気もあります。神経原性筋萎縮には筋萎縮性側索硬化症という病気があります。

 もちろん筋肉や神経に病気がなくても筋肉は使わなければ痩せていきます。これを廃用性筋萎縮と言います。また、全身の筋肉の量は加齢と共に減少していきます。この現象をサルコペニアと言い、高齢者のフレイル(虚弱)の要因になっています。

 高齢者の筋肉が落ちている原因の多くは廃用性筋萎縮ですから、お尻の筋肉のトレーニングをすると効果があるでしょう。例えば椅子の背を両手でつかみ、スクワットをするのもいいでしょう。

 下肢の衰えは臀筋の劣化につながります。散歩をするのもお勧めです。

 ただし、運動はひとりだと続きません。励ましてくれる人がいる場所でやるとよいでしょう。お金がかかりますが、整形外科で理学療法士から運動指導を受けるのもひとつの手です。

 なお、高齢者の場合、急激に臀部の筋肉が減る場合は、神経原性筋萎縮が隠れている場合も考えられます。気になる人は脳神経内科で診てもらうのも方法かもしれません。

水井睦

水井睦

みずい整形外科院長。日本整形外科学会認定専門医、同会認定脊椎脊髄病医、同会認定リウマチ医、日本体育協会認定スポーツドクター。1995年北里大学医学部卒業。横浜市立大学医学部整形外科入局。大学病院、国立病院などを経て、2005年から東京・祐天寺にて開院。

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