正月明けに寝苦しさや寝起き後の疲れが…夜間低血糖を疑え

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 年末年始ゆっくり休んだはずなのに寝苦しく、歯ぎしりがひどく、寝汗をかいて眠りが浅く、悪夢ばかり見る。朝起きると疲労感があり、頭痛や肩こりがひどい。そんな人は「夜間低血糖」を疑った方がいいかもしれない。夜間低血糖は心臓突然死や骨折などのリスクを高めることもわかっている。「北品川藤クリニック」(東京・品川区)の石原藤樹院長に聞いた。

「低血糖とは、血糖値が正常範囲以下にまで下がった状態のことを言います。自律神経および中枢神経の機能異常を来し、発汗、不安、動悸、頻脈、手指のふるえや頭痛、視力障害、凝視、空腹感、引き込まれるような異常な眠気、重症で見られる痙攣、昏睡状態などの症状が表れます。眠りが浅い、夜中に目が覚める、悪夢を見る、というのは夜間低血糖の症状のひとつです。下がり過ぎた血糖値を上げようとしてストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールやアドレナリンなどが一斉に分泌され、交感神経が優位になることで起こります。その結果、悪夢や寝汗、歯ぎしり、筋肉のこわばりが増えて、朝起きたときに頭痛や肩こり、疲労感が残ってしまうというわけです」

 夜間低血糖を起こしている人は起床時の血糖値が高くなる。「200ml/㎗以上」という人も珍しくない。下がり過ぎた血糖の反動として血糖を上げるホルモンが大量に分泌され肝臓でのグリコーゲンの分解や糖新生が促進されてしまうからだ。

「夜間低血糖になりやすいのはインスリンやSU剤(スルホニル尿素薬)で糖尿病治療している人です。ただし、糖尿病でありながら自分にその自覚がなかったり、糖尿病と知りながら放置したりしている人でも夜間低血糖は起こり得ます」

 2016年の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる者」と「疑いが否定できない者」の推定数は2000万人。「糖尿病が強く疑われる者」のうち、「現在治療を受けている者の割合」は76.6%(男性78.7%、女性74.1%)である。その数は男女とも増加しているものの、4人に1人は無治療であり、40代はとくにそれが目立つ。一般の人が考えているよりも多くの人が夜間低血糖による寝苦しさを経験している可能性がある。

「とくに年末年始の休暇明けのこの時期は要注意です。多くの人が体を動かさずに食事時間が不規則でおせち料理など糖質の多い食事と大量のお酒で過ごしてきたからです。血糖コントロールが乱れやすく、自分でも気づかないまま夜間低血糖を繰り返している可能性があるのです」

 夜間高血糖が怖いのは、致死性の不整脈が起こりやすく心臓突然死のリスクが高くなること。英国の大学の研究者がインスリン治療中の患者25人に対して低血糖発症時の不整脈リスクを調べたところ、夜間低血糖を起こしている人は正常な血糖値の人に比べて高く、その頻度は昼間の低血糖時よりも夜間低血糖時の方が高かった。

「心臓は1日に約10万回規則正しく収縮と拡張を繰り返しています。そのため、そのリズムが崩れて不整脈が起きていることは珍しいことではりません。実際、中年以降の人を24時間連続で心電図を取り続けると少なくとも1回や2回は不整脈が観察されます。しかし、糖尿病で正常な血糖値を保てなくなると、夜中に急に交感神経が活発になって脈が早くなるなど不整脈が出て心臓に負担をかけ、心臓のトラブルを起こしてしまうのです」また、夜間低血糖は認知機能を低下させるため、夜間のトイレなどでふらついて骨折や脱臼などになる場合もある。夜間低血糖を引き起こす原因である糖尿病はそれ自体に脳梗塞の発症リスクをアップさせる。日本人を対象にした調査・研究によると、健康な人の脳梗塞リスクを1とした場合、糖尿病の人のそれは男性が2・22、女性が3・63だった。

「脳梗塞は、脳の血管の一部が狭くなったり、血栓が詰まったりして、血液が流れなくなり、その部分の脳機能がダメージを受ける病気です。年間6万人以上が亡くなり、命が助かっても運動機能や言語機能などに障害が残りやすく、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。夜間低血糖の人は脳梗塞を発症しやすいことがわかっています」

 夜間低血糖は翌日の能力低下にも影響する。症状のある人は昼間に、「疲労」、「うつ状態」、「落ち着きのなさ」を感じることがあり、なかには「欠席」や「欠勤」、「成績低下」、「生産性の低下」などがみられる場合があるという。

「これを防ぐには、夕食の時間や食事やお酒の量を元に戻すことが大切です。お酒によっては血糖値を下げる働きがあるので寝る前の飲酒は控えましょう。夜遅くまでテレビやネット動画を見るのもやめるべきです。またインスリン注射をしている人は打つ場所を変えたことで、飲み薬を使っている人はその種類や量を変えたことで夜間低血糖を起こす人がいます。その場合は医師に相談しましょう」

 当然だが、夜間低血糖による寝苦しさに睡眠導入剤は効かないし、病状を悪化させることになる。夜間血糖の症状に心当たりのある人は自分で判断せずにまず糖尿病治療に詳しい医師に相談することだ。

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