人生100年時代の歩き方

牛乳やウコンに医学的根拠なし 医師が教えるお酒の新常識

歓送迎会や花見シーズンが来る前に知っておきたい
歓送迎会や花見シーズンが来る前に知っておきたい(C)日刊ゲンダイ

 来月には歓送迎会や花見など飲む機会も増える。二日酔いを避けるために飲み会の前に「ウコン」を飲んだり、事後に「シジミ汁」を飲んでいるサラリーマンは多いだろう。しかし、これらの効果はあまり期待できない。慶応大看護医療学部教授の加藤眞三氏に聞いてみた。

 ◇  ◇  ◇

 ―――お酒を飲む前に「牛乳」や「ウコン」を飲むと酔いにくいといわれますが、これは本当ですか?

「どちらも医学的な根拠はありません。まず、牛乳など脂質の多いものを飲むと胃の粘膜がコーティングされるから酔いにくいとはウソ。このような実験をした科学論文はありませんし、アルコールの成分であるエタノールは脂溶性かつ水溶性なので、牛乳を飲んだところでアルコールは体内にすみやかに浸透します」

 ――ウコン入りのドリンクやサプリも肝臓に負担をかけるということですか?

「アルコール性肝障害は、飲酒に伴う酸化ストレスによって起こります。酸化ストレスは、悪玉活性酸素(ヒドロキシラジカル)が鉄イオンを吸収することで生じる。よって鉄分を多く含むウコンは推奨できないのです」

 ――それではアルコール摂取の前に食べるとよいものはありますか?

「基本的には飲みすぎの症状を抑える研究はありませんから、科学的にこれを食べれば二日酔いに効くというものはありません。ただ、アルコール性肝障害を進ませるのが鉄分の過剰摂取のほかに、高脂肪食。そのため飲酒時には脂肪分の少ない炭水化物を一緒に取るのがいいでしょう。おにぎり、お茶漬け、ソーメン、そば、トースト、クラッカー。これらは胃の負担も少なく、二日酔いになった後の食事にも適しています」

慶応大看護医療学部教授の加藤眞三氏
慶応大看護医療学部教授の加藤眞三氏(C)日刊ゲンダイ
飲まないよりも、毎日適量飲む方が健康

 ――病気にならない飲み方を推奨されていますが、適量とはどのくらいですか?

「日本酒は3合が目安です。エタノール量で多くて60グラム。これまでの研究では、適量を飲んでいる人と全く飲まない人は死亡率に変わりはありません。お酒に強い人は自身の酔いの感覚で適量を決めがちですが、健康を害さない量は基本的に万人共通です」

 別表1はお酒の種類別のエタノール量だ。酒量を決める上で参考にしたい。

 ――特にワインはポリフェノールが多いから健康にいいとブームにもなりました。お酒によって効果は違うのでしょうか?

「米国医師会の専門誌で、ワインに含まれているポリフェノールの主な成分であるレスベラトロールには、がんや心臓疾患を防ぐことと因果関係がないと発表されています。むしろ、これまでの研究から酒の種類に関係なくすべてのお酒の成分、エタノールそのものが動脈硬化を抑えると考えられていて、心臓死を減少させる効果が期待できます」

 ―――心臓疾患予防など、むしろ健康になると!?

「適度なお酒は2型糖尿病になりにくいといわれています。成人に多い糖尿病の型ですが、実はお酒を飲まない人に比べると飲んでいる人の方が発症が少ない。研究によって男性の場合、1日のエタノール摂取量が22グラムの人が、糖尿病の発生が最も低いのです。飲まない人よりも13%もリスクが低下することが分かっています。女性は1日24グラムが最も低い。アルコールがインスリンの働きをよくするためだと考えられています。ただし、すでに経口薬やインスリンを用いた治療中の人は低血糖発作を引き起こしやすくなります。糖尿病の人の飲酒は医師に相談してください」

 ――新型コロナウイルスによる肺炎の感染者が日に日に増えています。外食を避けたい人も多く、家飲み需要は高まりますが、気を付けることはありますか?

「一人酒は酒量が増えやすいので家族や友人と楽しむことを勧めます。蒸留酒の飲み方には気を付けてほしいですね。ウオッカ、ウイスキー、焼酎などは軽いので量が飲めますが、必ず水やお湯、炭酸で割ること。お酒をつくるときは気持ち多めに割って、アルコール度数を10%程度にすると二日酔いも抑えられます」

 ほかにも、別表2で飲酒の医学的効果をチェックしよう。

▽加藤眞三(かとう・しんぞう)医学博士。1985年慶応大大学院医学研究科修了。88年まで米国ニューヨーク市立大マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長などを経て現職。近著に「肝臓専門医が教える病気になる飲み方、ならない飲み方」(ビジネス社)。

医学的に効果は認められていない都市伝説
医学的に効果は認められていない都市伝説(C)日刊ゲンダイ
東北や九州の人がお酒が強い?  

 酒の強い弱いの違いは、“悪酔いの原因”とされるアセトアルデヒドの分解能力の差といわれる。筑波大元教授の原田勝二氏の調査が興味深い。

 アセトアルデヒドは、肝臓の中のALDH(1型、2型=アルデヒド脱水素酵素)によって分解されるが、2型には遺伝的に活性が強い人と弱い人がいる。普通型、半欠損型、全欠損型があって、欧米人の大半は普通型だ。半欠損型はそこそこ飲めるタイプで、全欠損型は下戸だ。

 日本人は半数が普通型、半欠損型は45%、全欠損型は5%。北海道から沖縄まで5000人以上を対象に調べたところ、北海道、東北、九州、沖縄地方に普通型の割合が多く、1位は秋田、次に鹿児島と岩手、最も少ないのが三重、次いで愛知だった。東北・九州がお酒に強いのは、科学的根拠があった。

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