緊急企画 新型コロナを正しく恐れる

嗅覚味覚がなくなるのはウイルスがニオイに関わる粘膜や神経を障害している可能性

PCR検査で陽性と判定された阪神・藤浪投手
PCR検査で陽性と判定された阪神・藤浪投手(C)日刊ゲンダイ

「ワインやコーヒーのにおいがしない」

 新型コロナウイルスのPCR検査で陽性と判定された阪神・藤浪晋太郎投手(25=写真)が訴えたのは嗅覚の異常だけだった。

 同様の症状に加え、味覚障害があったほかの2選手も陽性で、一様に発熱、咳、倦怠感といった感冒様の症状は出ていないという。

 新型コロナウイルスが嗅覚や味覚に異常を引き起こす事例は世界各地で報告されている。ドイツでは、確認された感染者の3分の2以上に症状が表れていて、「汚れたおむつのにおいがしなくなった」「シャンプーのにおいがしなくなった」「食べ物が薄味に感じる」などと訴えているという。

 英国の耳鼻咽喉科学会は「韓国、中国、イタリアにおいても多数の新型コロナ感染者に嗅覚障害や味覚障害が表れている」と声明を出し、米国の耳鼻咽喉科学会も「嗅覚と味覚の障害を新型コロナウイルス感染を診断する際の基準に加えるべき」と提言している。

 なぜ、ウイルス感染症で嗅覚や味覚がなくなってしまうのか。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医で、慶友銀座クリニック院長の大場俊彦氏は言う。

「一般的に多いのは、ウイルス感染症で風邪症状が表れると鼻水が出て、鼻が詰まった状態になり、においの分子が嗅覚センサーがある鼻の奥まで届かなくなるケースです。それによって同時に味覚も感じづらくなります。また、鼻が詰まって口呼吸になると唾液が減り、口腔内が乾きます。それで舌にある味覚センサーが障害を来す患者さんもいます。インフルエンザなどのウイルス性の感冒にかかった後に嗅覚と味覚にも障害を起こす症例はよくあります。ただ、今回の新型コロナウイルス感染症で嗅覚や味覚に異常を来した事例を見るとほかに症状が出ていない段階の初発症状とのことですから、一般的なパターンに当てはまらないケースといえます」

■いきなり耳鼻咽喉科に駆け込んではいけない

 となると、ウイルスによってにおいを感知する粘膜や細胞が障害されている可能性もある。われわれがにおいを感じるのは、鼻から入ったにおいの分子が鼻腔の奥の最上部にある「嗅上皮」という粘膜に溶け込み、嗅上皮にある嗅細胞が発した電気信号が嗅神経、嗅球、脳へと伝達されることで生じるといわれている。

「新型コロナウイルスによって、なぜ嗅覚障害や味覚障害が起こるのかについてはまだ分かっていませんが、ウイルスによって嗅上皮が障害されている可能性があります。においの信号を伝達する嗅神経や、もっと奥の中枢性の神経に障害が起こっていることも考えられます。味覚障害については、中枢性の神経が障害されるとのみ込みが悪くなるケースもあるので、そこまで異常が起こっていることは考えづらいといえます。また、風邪症状で嗅覚や味覚がなくなっている人を調べると、体内の亜鉛が減っているケースがあります。ひょっとしたら、ウイルス感染によってそうしたにおいに関わる特定の成分が減少している可能性もあります」(大場氏)

 嗅覚や味覚に異常を来すメカニズムについては今後の研究を待たなければならないが、問題は嗅覚障害や味覚障害が起こった場合、われわれはどうすればいいのかということだ。

「風邪症状がないのに嗅覚障害や味覚障害の症状が表れた場合、新型コロナウイルスへの感染が考えられます。いきなり耳鼻咽喉科に駆け込むと周囲の人に感染させてしまうリスクがあるので、英国の耳鼻咽喉科学会も言っているように、まずは1週間くらい自宅で安静にしてください。その間に発熱や咳などの症状が出た場合、帰国者・接触者相談センターに電話で連絡してください。発熱などの症状がなく、嗅覚や味覚異常だけが続くようなら、耳鼻咽喉科の専門医院に電話連絡して、医師の指導に従うようにしましょう」(大場氏)

 パニックになってはいけない。

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