“声の衛生教育”を2カ月 6割以上の人の声帯ポリープ消えた

風邪の時は無理をしない
風邪の時は無理をしない(C)日刊ゲンダイ

 大声で話すことが多い人などにできやすいのが、声帯ポリープ。命にかかわらない良性疾患だが、手術を勧められることが多い。しかし、国立病院機構東京医療センター感覚器センター(耳鼻咽喉科)の角田晃一医師によれば、手術前に“あること”をすれば、手術を受けなくても声帯ポリープが消える可能性があるという。

■手術が不要に

 芸能人にも多い声帯ポリープ。3年前、ナインティナインの岡村隆史さんも声帯ポリープの手術を受けたという。ラジオ番組で語った内容では、手術後1週間は声を出してはいけなかったそうだが、仕事の関係で4日間だけ声を出さずに過ごした。会話は筆談。咳払いやクシャミは絶対ダメで、脳内で歌詞を追って声帯を震わせる危険性があるため音楽も聴かずに過ごしたそうだ。手術はかなり大ごとであることが分かるだろう。避けられるものなら避けたい。

「そこで『声の衛生教育』が重要なのです。健康な声を保つための適切な教育のことです。欧米では、声帯ポリープが見つかったらまず言語聴覚士が声の衛生教育を行います。しかし、日本では医師によって意見が分かれます」(角田医師=以下同)

「乾燥やほこりに注意する」「無理な発声の禁止」「大声を出さない」「声が出にくい時は出さない」「風邪の時は無理をしない」などと患者に“教育”を行うのは手間がかかるからだ。言語聴覚士が不足しているという問題点もある。最初から声の衛生教育を行わず、手術を勧める医師も少なくない。

 角田医師が、手術前の声の衛生教育が重要だと考えるのは、次の理由からだ。まず、全身麻酔をかける手術は患者の体に負担をかけること。次に、手術が医療費の負担増になること。さらに、声帯ポリープは原因を解決しなければ、手術で取ってもまたできること。声の衛生教育は、つまりは、声帯ポリープができにくい声の出し方を指導するものなので、再発防止にもなる。

「私たち国立病院機構の全国11病院からなる感覚器研究グループは、声の衛生教育の効果を客観的に示すために、世界初のランダム化比較試験を行いました。その結果は、2018年発行の医学誌『Laryngoscope』に掲載されました」

 角田医師らは、声帯ポリープと声帯結節(声帯にできるコブ)の患者200人を2つのグループに分けた。具体的には、①医師、言語聴覚士、患者によるチーム医療で啓発DVDなどを用いて声の衛生教育を行う②声の衛生教育について書いたパンフレットを渡し、注意喚起するのみ――という2つのグループだ。

 すると2カ月後、①のチーム医療のグループでは61・3%の人で声帯ポリープが消えていた。一方、②のパンフレットを渡されたグループは、声帯ポリープが消えた人が26・3%だった。①の半分以下だ。

■自分ひとりでもできる

 この研究で明らかになったのは、「声帯ポリープは声の衛生教育で消える可能性があり、手術前に行うと有効」であること。さらに重要なのは、「パンフレットを見て自分で行う方法でも効果があるが、専門家と一緒に声帯に負担をかける習慣をあぶり出して改善した方がより効果が高い」ということだ。

「子供を対象にした観察研究でも、声の衛生教育で声帯ポリープが消える結果が出ています」

 残念ながら、国内では声の衛生教育に力を入れているところはまだ多くはない。まずは主治医に相談し、声の衛生教育について書かれたパンフレットを手に入れよう。

 ただし、声帯ポリープはがんとの区別がつきづらいケースもある。自己判断はやめて、必ず耳鼻咽喉科で検査を。

 声の衛生教育についての啓発動画「NHO(国立病院機構) 声の衛生日本語版・英語版」は、同機構のホームページなどでチェックできる。

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