緊急企画 新型コロナを正しく恐れる

ワクチン開発にはいくつもの高い壁…使用可能まで1年以上

まだまだ時間がかかりそう
まだまだ時間がかかりそう(C)ロイター

 新型コロナウイルスに対する予防ワクチンの開発が世界各国で急ぎ進められている。米ファイザー社と独ビオンテック社は、共同開発しているmRNAワクチンの臨床試験を4月末までにスタートさせ、米ジョンソン・エンド・ジョンソンも9月までに臨床試験を始め、来年初めの緊急的な実用化を目指している。

 今月2日には、米マイクロソフトの共同創業者のビル・ゲイツ氏が、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発を進める製薬会社7社の工場建設を支援するため、自身の財団を通じて数十億ドルを拠出することを明らかにした。

 ほかにも、イギリス、フランス、豪州、中国、日本といった国々でワクチン開発が進められていて、もうすぐにでも新型コロナウイルスのワクチンが登場しそうに思える。しかし、広く使われるようになるにはやはりまだまだ時間がかかりそうだ。岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「ワクチンが完成し、増産態勢が整って広く供給されるまでには、早くても1年から1年半以上はかかるとみられています。そもそも、ワクチン開発にはクリアしなければならない課題が多くあって、有効性と安全性を確認する臨床試験だけで3段階の検証や承認が必要です。まずは第Ⅰ相試験で20人程度の少人数を対象に投与して経過を観察し、最適な用法や用量を確認します。続く第Ⅱ相試験では、より多くの患者に投与して用法、用量、副作用などをさらに調べ、それをクリアしてから第Ⅲ相試験が行われます。数百から1000程度の幅広い年齢層の人を対象にワクチンを投与し、プラセボ(偽薬)との比較を行うなどして有効性と安全性を検証するのです」

 3段階の臨床試験を終えた後、規制当局による審査と承認を経て、ワクチンの製造と品質管理が行われるようになる。今回は特例で一般的な臨床試験よりも短い期間で済むとみられるが、それでもまだ時間がかかる。

 ワクチン開発で徹底した試験が行われるのは、有効性と安全性をしっかり確認するためにいくつも“壁”があるからだという。

「ワクチンを投与することで新型コロナウイルスに対する抗体がつくられたとしても、ウイルスに対抗する抗体の量や強さを指す『抗体価』がどれくらいあれば予防効果があるのかはわかっていません。抗体の生着には個人差もありますし、基準となる値の見極めも必要です。また、つくられた抗体がどれくらいの期間にわたって機能するのかもわかりません。インフルエンザワクチンのように1年程度は効果があるのか、数十年も持続するのか、1週間で効かなくなってしまうのかといった検証も必要です。また、ウイルスは変異が早く型が少し変わってしまうだけでワクチンの効果が望めなくなります。どう対応するかの研究も行わなければなりません」(神崎浩孝氏)

 安全性で懸念されているのが、「ADE」(抗体依存性感染増強)だ。ワクチンの投与によってつくられた抗体が、免疫細胞に対するウイルス感染を促進し、感染した免疫細胞が暴走して症状を悪化させてしまう。

「なぜADEが起こるのかについては、まだはっきりわかっていないのが現状です。ただ、かつて同じコロナウイルスが原因のSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)に対するワクチン研究では、投与した哺乳動物でADEが原因とされる重症化を招いたと報告されています。新型コロナウイルスのワクチンでADEが起こるかどうかはわかりませんが、可能性がある以上、慎重な検証が欠かせません」(神崎浩孝氏)

 実用化を急ぎ過ぎると手痛いしっぺ返しを食らいかねない。

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