コロナ禍で食糧危機はやってくるのか 国際機関が懸念表明

穀物の絶対量は足りていても輸出制限が…
穀物の絶対量は足りていても輸出制限が…(C)共同通信社

 感染が世界中に拡大し続けているため、各国がマスクや防護服、手指消毒剤、人工呼吸器などの輸出禁止を始めている。

「北米、欧州をはじめとするほとんどの国が、それらの資材の輸出を禁止する一方、アメリカやイギリスは関税を引き下げ、世界中からかき集めているところです。しかし不思議なことに、日本は医療材料などの輸出制限も関税引き下げも行っていません」(長浜バイオ大学・永田宏教授)

 首都圏や阪神地域で緊急事態宣言が出されたが、危惧された食料の買い占め騒動はほとんど起こらなかった。むしろ外出の自粛によって、スーパーには生鮮品を中心に食品があふれかえっている。食料の安定供給が続いているのは心強い。

 しかし、そう安心していられるのはいまだけかもしれない。先月31日、国連食糧農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)・世界貿易機関(WTO)が共同声明を出した。各国が行う新型コロナウイルス対策が、国際貿易と食料品のサプライチェーンに大きな混乱を招き、食料不足が生じる懸念があるというのだ。

「世界の穀物在庫は十分にあるし、去年から今年にかけては世界的に豊作が続いています。穀物の絶対量は十分に足りているのですが、新型コロナ対策で生じた人手不足や、国境閉鎖、港湾の検疫強化などにより、産地から消費地への輸送が滞り始めているようです」(永田宏教授)

 穀物の輸出制限を始めた国もある。カザフスタンは小麦の輸出を禁止した。日本ではあまり知られていないが、同国は世界的な小麦の輸出国である。ほかにロシア(小麦)、インド(米・小麦)、カンボジア(米)、ベトナム(米)なども、輸出禁止や制限を始めている。

 ただし、日本への直接的な影響は小さい。それらの国々から米・小麦をほとんど輸入していないし、国内の備蓄も十分ある。だが野菜や果物の不足は、じわじわと効いてくるかもしれない。アメリカの農場は、出稼ぎのメキシコ人を使って農産物の収穫を行っている。またフランスやドイツなど西ヨーロッパ諸国の農業は、主に北アフリカや東欧からの出稼ぎに頼っている。しかし、人の移動に強い制限がかかった結果、各国とも人手不足が深刻化している。

 また、生鮮品の多くは空輸に頼っているが、航空機の運航にも大きな制限がかかりつつある。国産品ですべてを代替させるのは難しい。当面、野菜と果物の値上がりを警戒した方がいいかもしれない。

 ほかにも、乳製品(オーストラリア・ニュージーランド)や牛肉(アメリカ・オーストラリア)、豚肉(アメリカ・カナダ)、鶏肉(ブラジル)の輸入が滞り、値上がりする可能性がある。

「アフリカからは、別の悪いニュースが伝わってきています。昨年末からバッタ(サバクトビバッタ)の大群が発生し、今年に入ってから『70年に一度』(FAO)という深刻な蝗害が起こっているのです。バッタの群れはアラビア半島を襲ったあと、パキスタンに上陸し、インドに迫っているようです」(永田宏教授)

 パキスタンやインドは、世界的な綿花栽培地であるため、被害の程度によっては綿製品の高騰が心配される。

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