人工肛門かそれ以外か…迷ったときに知っておきたいこと

生活の質(QOL)を下げないことも大事(写真はイメージ)/
生活の質(QOL)を下げないことも大事(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 漫画家の内田春菊さんは2015年に直腸がんが見つかった。抗がん剤治療を経て、人工肛門を造設。最初はショックを受けたものの、次第に慣れていったとインタビューで語っている。でも、本当に人工肛門って慣れていくもの? 大腸癌研究会会長で、光仁会第一病院院長の杉原健一医師に聞いた。

 内田さんはウェブメディアのインタビューで、「最近のもの(人工肛門の装具)は本当に薄くなって使い勝手も良くなったので、随分楽になりました」とも語っている。

「かつては人工肛門がつらいと感じる人も多かったかもしれません。しかし今は、人工肛門の装具の性能が非常に良くなっています。便が漏れたりニオイが漏れたりということもありません」(杉原医師=以下同)

 そもそも人工肛門は、どういう時に検討されるのか?

 大腸がんには、結腸にできる結腸がんと、肛門に続く直腸にできる直腸がんとがある。直腸がんで、がんのある部分が肛門に近いと、肛門も切除せざるを得ない。

 というのも、大腸がんの手術では再発を防ぐために、がんの周囲にあるリンパ節も切除するからだ。直腸は15~20センチほどしかなく、直腸と肛門の間の歯状線を越えると、肛門縁まで2センチほどしかない。医師は患者の術後のQOL(生活の質)も重視するものの、人工肛門をどうしても避けられないことはあるのだ。

「大腸がんの手術の一番の目的は、がんを的確に取り除き治すこと。がんの場所が問題になるので、直腸がんでは早期で見つかっても人工肛門になる可能性はあります」

■装着を回避する方法もある

 肛門切除か、あるいは残せるか……。そのギリギリラインの場合、最近は、ISR(括約筋間直腸切除術)という手術が検討される場合もある。

 排便に関わるのが肛門括約筋だ。便が直腸にある程度たまると、それが脳に伝わり便意を催す。すると肛門の内側の内肛門括約筋が無意識に緩み、外側の外肛門括約筋が意識的に緩み、便が出る。

 従来の手術では、直腸とともに内肛門括約筋と外肛門括約筋を切除するので、人工肛門の造設が必要になる。しかしISRでは、直腸と内肛門括約筋を切除し、残った大腸と肛門をつなげる。外肛門括約筋は残るので、人工肛門をつけずに済む。

「ただ、現在の進化した人工肛門の装具と比べると、ISRで排便機能は残せたはいいが、QOLが下がったという人も少なくありません」

 外肛門括約筋が残っているので、便が出ないように肛門は閉められる。つまり、便をためる力はある程度残っている。ところが直腸が切除されているため、便を押し出す力がかなり弱まる。すると、一度に便を出すことができないため便の回数が増える。

「個人差はありますが、手術後2~3カ月は1日10回以上、落ち着いても1日3~4回はトイレに行くようになる人が多い。さらに、あまり我慢できない。便意を催したらすぐにトイレに行かなければならない人もいます」

 ゴルフ好きな人なら、ゴルフ場にトイレがないので人工肛門の方が楽かもしれない。営業マンで、便意を催したらすぐにトイレに駆け込めるように「トイレマップ」を作っている人もいる。また、寝ている間に漏らしてしまう、という人も。しょっちゅう漏らすわけではなくても、いつ漏らすか分からないとなれば、常にパッドが必要という人もいるだろう。

「むやみに人工肛門を嫌う必要はない。最新の人工肛門の装具がどういうものか、よく主治医と相談した上で治療法を決めるべきです」

 場合によっては、セカンドオピニオンも考えた方がいい。

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