骨と筋肉の疑問に答える

疲れやすく仕事に集中できない…原因は「姿勢」は本当か?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【Q】最近、疲れやすく仕事に集中できないので友人に相談したら、姿勢が悪いせいだと言われました。無理な姿勢で筋肉が疲労しているというのです。本当でしょうか? (30代男性)

【A】大いに関係があります。筋疲労というと、激しい運動を行ったときに起きるものと思い込んでいる人がいますが、間違いです。同じ姿勢を長時間続けた結果、筋力や筋肉を使った仕事をこなす能力が低下した状態をいいます。

 原因は血液循環が停滞して、筋肉に送り込まれる酸素量が減少するためです。では、良い姿勢とはどういうことをいうのでしょうか。まずは立ち姿勢から考えてみましょう。一般的には良い立ち姿というと、両手を伸ばしてももにつけ、かかとをつけた直立不動の姿をイメージするはずです。見た目が良いこともありますが、力学的に安定しているからです。つまり、頭部、体幹、四肢の重心を統合した重心線が支持基底面(両足底と、その間の面積の合計)の中心に近いことで安定すると考えられるからです。

 しかし、ご存じのようにこの姿勢を長く続けると疲れます。先に述べたように血液循環が停滞して筋肉への酸素供給量が減って筋疲労が起きるからです。では、筋疲労を軽減するにはどうすればいいのでしょうか? 立ち姿勢では足を広げることです。そうすれば支持基底面が広がるため、安定します。さらに片側を斜め前に出す、いわゆる“休め”の姿勢の方が、血液循環が促進されるため、さらに疲れなくなります。

 当然のことですが、立ち姿勢が悪い人は筋疲労が強くなります。立位姿勢を100とした場合の第3腰椎椎間板への内圧変化を調べた調査では、前傾の立ち姿は、負担の少ない立ち姿に比べて1・5倍になることが明らかになっています。

 多くの人は立っているより座っている方が楽だと考えますが、腰への負担を考えた場合、これも思い込みに過ぎません。良い姿勢で座ったとしても立位の1・4倍、パソコン作業のように椅子に浅く座って背骨が丸くなり、顔が前に出る悪い姿勢を取ると、1・85倍にもなるといわれています。また、座った状態で机の下の重い荷物を持ち上げようとすると立位の2・75倍もの負担が腰に加わります。

 座ったときの姿勢はどうでしょうか? 前回もお話ししましたが、本来人間の背骨は成人で約5キロともいわれる頭部の重さを支えるためS字状になっています。ところが座ると背骨のS字状が崩れてアーチ状になり、腰や椎間板への負担が大きくなって疲れやすくなるのです。ですから、椅子に座ったときの良い姿勢というのは、背もたれと座板で第3腰椎周辺をしっかりサポートできるように深く座り、前傾になり過ぎず、頭部が骨盤に垂直になるように努めることです。見た目が良いからと「モデル座り」をする人がいますが、これは体に負担をかけてしまいます。椅子に浅く腰掛けて、背筋を伸ばして座る姿勢のことですが、これでは自分の体重を足の付け根と座骨で支えることになり、ももの裏側などに圧力がかかりやすくなる。それをさけるために、重心を前にして机に置いた肘で支えて圧力を分散しようとします。しかし、これでは長時間座ることはできません。

水井睦

水井睦

みずい整形外科院長。日本整形外科学会認定専門医、同会認定脊椎脊髄病医、同会認定リウマチ医、日本体育協会認定スポーツドクター。1995年北里大学医学部卒業。横浜市立大学医学部整形外科入局。大学病院、国立病院などを経て、2005年から東京・祐天寺にて開院。

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