Dr.中川 がんサバイバーの知恵

日米で注目研究 「座り過ぎ」はがん死の可能性が8割増える

30分歩く(写真はイメージ)/
30分歩く(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスは、良くも悪くも生活スタイルを一変させました。仕事との兼ね合いで大きいのが、在宅勤務の定着でしょう。大企業の間では、今後も在宅勤務を続けるケースが珍しくありません。

 たとえば、日立は2021年に「在宅勤務50%」を表明。生産現場のスタッフなどを除いて、週に2、3日を在宅勤務にすることで目標を達成する見通しです。富士通やリコー、ドワンゴなども在宅勤務を継続するといいます。

 在宅勤務の人たちの悩みは、座りっぱなしで動かないことでしょう。コロナ太りというキーワードも生まれました。今後の在宅勤務を考える上で、注目の研究結果が今月18日、医学誌JAMAに発表されました。

 米テキサス大MDアンダーソンがんセンターの研究チームは、脳卒中の横断調査を行うREGARDS研究に登録された45歳以上の3万人超のうち、がんの診断を受けていない8002人を5年間追跡。その結果、がんで亡くなった268人を、座る時間の長さで比較したところ、最も長いグループは最も短いグループに比べて82%も死亡リスクが高いのです。

 今回の研究で、がんの部位ごとのリスクは明らかになっていません。ただし、これまでの欧米の調査では、長時間の座位によって、特に乳がん、卵巣がん、多発性骨髄腫、前立腺がん、大腸がんが増えることが分かっています。

 それでも今回の研究が注目なのは、対象の8002人に加速度計を装着してもらい、座位と動いている時間を連続する7日にわたってキッチリ調べている点です。従来は、参加者の自己申告制でしたから、今回の方が精度が高い。

 日本の国立がん研究センターも多目的コホート研究で「職業性座位時間とがん罹患リスクとの関連」を調査。その結果、座位時間が長いほど、男性はすい臓がん、女性は肺がんにかかりやすいことが分かっています。

 国内外の研究結果から分かるのは、脚を動かさないことが健康によくない可能性です。論文は、座っているということががんを増やすことを示しています。

 在宅勤務が広がる時代だけに、積極的に意識的にイスから立ち上がり、動くことが今まで以上に大切です。

 テキサス大の研究は、30分座るのをやめるだけでいいと伝えています。サイクリングなど中程度の強度の運動なら、がんの死亡リスクは31%低下。ウオーキングなど軽い運動でも、8%下がるといいます。

 同大のスーザン・ギルクリスト准教授は「仕事中は1時間に5分ずつ立ち上がったり、エレベーターをやめて階段を使ったりする」ことを推奨。それくらい軽い運動でも、とにかく座位を続けず動くことが大切です。私もウオーキングをお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事