病気を近づけない体のメンテナンス

下肢静脈<上>職場セルフケアで足の「筋ポンプ」を鍛える

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 太ももの付け根から足のつま先までの全体を医学用語で「下肢(かし)」という。下肢の皮膚のすぐ下、筋肉よりも上にある静脈を「表在静脈」と呼び、太ももの付け根から内側を通る「大伏在静脈」と、膝の裏からふくらはぎの後ろ側を通る「小伏在静脈」がある。

 普通、表在静脈は脂肪の下に隠れている。しかし、表在静脈が拡張して目立つようになり、モコモコと蛇行して浮き上がってくるのが「下肢静脈瘤(りゅう)」という病気の典型的な特徴だ。足に、次のようなさまざまな症状が表れる。「重い、疲れやすい」「慢性的なかゆみがある」「痛み」「傷が治りにくい」「こむら返りが頻繁に起こる」「むくみ」など。

 どうして下肢静脈が拡張するのか。日本静脈学会理事長で「慶友会つくば血管センター」(茨城県守谷市)の岩井武尚センター長が言う。

「足から心臓へ戻る下肢静脈の血液は、長い距離をずっと重力に逆らって進まなくてはいけません。そのため下肢静脈の内部には、血液が心臓の方向に進むときにだけ開き、反対方向へ逆流しようとすると閉じる『弁』が配置されています。表在静脈にある弁の働きが壊れてしまうのが下肢静脈瘤です。重力に逆らえなくなった血液がたまって、静脈が拡張してしまうのです」

 表在静脈の弁が1つ壊れると、血液が逆流するようになり、放置していると隣の弁から順番に壊れていく。その拡張した静脈がモコモコと蛇行しているように見えるのだ。下肢静脈瘤は急激に悪化することはめったになく、進行が非常に遅い。しかし、放置して治ることはなく、少しずつ確実に悪化していく。だからこそ発症予防、進行の悪化を防ぐには、毎日セルフケアが大切になるのだ。

 足の健康を保つには、重力に逆らって血液を心臓に運ぶ静脈の働き(静脈環流)をスムーズにすることが欠かせない。その重要な働きを果たしている1つが、ふくらはぎの筋肉による「筋ポンプ」の機能だ。
「ふくらはぎの筋肉は、血液を下から上に押し上げる作用を、静脈の横からサポートしています。ふくらはぎには腓腹筋とヒラメ筋があり、その周囲は静脈がスポンジ状に張り巡らされています。その筋肉の収縮、弛緩によって静脈が圧迫され、内部の血液が絞り出されるように上に流れるのです。特に立ち仕事の人に下肢静脈瘤の発症が多いのは、長時間の直立不動でこの筋ポンプが働かないからです。セルフケアの基本は筋ポンプを動かすことです」

 筋ポンプを動かすには、別に歩く必要はない。足首を動かすだけでも、自然とふくらはぎの筋ポンプは機能するからだ。岩井センター所長が勧めるセルフケアになる習慣はこうだ。

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貧乏ゆすりや「弾圧ストッキング」も効く

■立ち仕事中にできる運動習慣

【動けないときは】 動くこともできない接客業などの場合は、かかとを2~3㌢程度浮かした状態を2~3分間ほどキープする。1時間に2~4回ほど行うのがいい。

【動けるなら】 立ち仕事でも少し動けるのであれば、かかとの上げ下げ運動をする。かかとを2~3㌢浮かせた状態で、さらにかかとを上げて5秒キープ、下げて5秒キープする。これを10回ワンセットとし、1時間に1回ほど行う。

■デスクワーク中に静脈の負担を減らす習慣

 本当はときどき立ち上がって歩いたり、屈伸運動をするのがいい。しかし、それも難しいなら、机の下の足元に高さ20㌢ほどの小さな台を置く。そして定期的に、左右のあしを交互に台に乗せる、降ろすという動作を繰り返す。

 また、オフィス内の周囲の人に迷惑がかからないようなら「貧乏ゆすり」も足の健康にはいい。

■昼の休憩時は足を高くする

 下肢静脈を休ませるには、横になるのが一番いい。ソファなどを使えるのであれば、マットやクッションを足の下に置き、心臓よりも足の位置を高くする。横になるのが難しいなら、椅子を2つ使って、片方の椅子に足を乗せて休む。

「すでに下肢静脈瘤がある人、自覚症状のある人、立ち仕事の人に、特に勧めたいのは日中に『弾性ストッキング』をはく習慣です。足首に最も強い圧力をかけ、上へ向かうほど段階的に弱い圧力をかける仕組みで、血液を上へ押し上げるサポートをしてくれます。しかし、結構はきにくいので『ハイソックス』でもかまいません。効果は同じです」

 次回は、下肢静脈瘤の進行を防ぐ体操を紹介する。

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