和式生活が健康を作る

イグサは薬草として使われていた 「畳」は自然の空気清浄機

イグサのスポンジ構造
イグサのスポンジ構造(写真提供:森田洋教授)

 最近は畳のない家もあるが、その健康効果を侮ってはいけない。北九州市立大学国際環境工学部環境生命工学科の森田洋教授に聞いた。

「畳の材料となるイグサはもともと薬草として使われてきた植物で、抗菌作用、抗炎症作用などが知られています。実際、イグサの粉末を寒天に混ぜて水虫菌を培養しても菌は生えません。素足で動き回る畳部屋は不潔だと思う人もいるかもしれませんが、畳部屋は抗菌作用のおかげで清潔だということです」

 イグサは大腸菌O―157やサルモネラ菌をはじめとする食中毒細菌や、枯草菌などの腐敗細菌に対しての抗菌作用が認められている。

 諸説あるが、イグサの原産地はインド。日本に伝わったのは奈良時代ごろからで、現存する最も古い畳は聖武天皇が寝具として利用していた「御床畳」。当時の畳表は用途も寝具や座具に限られ、天皇や貴族など身分の高い者しか使用できなかった。今のように床一面に畳を敷き詰める風習は室町時代以降で、庶民に広まったのは江戸時代後期からである。

 イグサの断面(写真)は硬い表皮部分と軟らかい灯芯部分から出来ていて、灯芯部分はスポンジのような構造をしている。このため吸湿性に優れ、有害物質にも高い吸着効果があることが知られている。

「例えばイグサの畳は1畳につき500ミリリットルの水分を吸うといわれています。夏、畳の部屋が涼しく感じるのは湿度が低いからです。しかも、シックハウス症候群の原因といわれる、ホルムアルデヒドといった揮発性有機化合物(VOC)やアンモニアなどの悪臭の原因となる物質や二酸化窒素を吸着するなど、空気をきれいにしてくれる機能も持っています」

 つまり、畳は呼吸器に優しい自然の空気清浄機ということだ。その吸水性故にカビが生えやすいため、日々の換気などメンテナンスが必要となるものの、日本人が健康のために作り上げた最高の建材のひとつだといえる。

■香りの効果で集中力アップも

 しかも、イグサは芳香性の高い植物で、この香り成分が畳を敷いた和室でのリラックス効果につながっていることが知られている。イグサの香りには樹木の香り成分や、バニラの香り成分であるバニリンなどが含まれており、鎮静作用を促進する働きがあるといわれている。

「畳の部屋にいると集中力が上がり、子どもの学習効果が上がることがわかっています。中学1年生と小学5年生計260人に対し、畳教室とフローリング教室でテストを実施。簡単な算数の問題を30分で何問解けるかを調べたところ、全体では正解率はほとんど差がありませんでしたが、解答数は畳教室のほうが14・4%高い結果となりました。その原因は畳教室では、畳の香りに加え、畳の吸音性や吸湿性で静かで快適な環境をもたらし“集中力の持続”につながったのだろうと考えています」

 面白いことにこの実験では中学1年生よりも小学5年生の効果が高く、小学5年生では解答数だけでなく、正解率も畳教室のほうが高かった。低年齢の子ほどイグサの効果が表れやすいと考えられ、子ども部屋にはできるだけ幼いころから和室がいいということか。

「畳にはフローリングに比べてクッション性があるので家庭内の事故を減らすことにつながります。高齢者は転倒が多いので、畳の部屋の方が安全です」

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