Dr.中川 がんサバイバーの知恵

感染対策も大事だが コロナ禍でも怠るな「3つの健康対策」

実は“健康ゆすり”
実は“健康ゆすり”(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染者数が、拡大しています。この病気が怖いのは容体が急変して、命が奪われることですから、マスクや手洗い、うがいなどを徹底することはとても大切です。

 しかし、コロナ対策を徹底するあまり、全体的な健康対策を後回しにしてはいけません。一時、院内感染の広がりで手術をストップする病院が相次ぎ、企業健診やがん検診をはじめとする各種検診も停止しました。患者目線でいうと、検診の後回しは早期発見の遅れや病状悪化を招く恐れがあります。コロナ禍における全体的な健康対策は、そういうリスクを潰すことです。

 具体的には、①在宅勤務による生活習慣の悪化②各種検診延期による早期発見の遅れ③がん治療の停滞です。この3つの影響が、見逃せません。詳しく見ましょう。

 在宅勤務の定着で、デスクワークの時間が増加。ネット調査では、8割が増えたと回答し、増えた時間は「1時間以上3時間未満」が43%で、「3時間以上5時間未満」は22%に上ります。実は座り過ぎは、がんを助長するのです。

 米テキサス大MDアンダーソンがんセンターの研究チームは、座る時間の長さによって3グループに分けて比較したところ、「最長」は「最短」に比べてがんで亡くなるリスクが82%も高かったのです。一般に、たばこは60%がん死を増やしますから、座り過ぎは20ポイントも高いことになります。

 対策は、30分に1回トイレに行ったり、エレベーターをやめて階段を使ったり。貧乏ゆすりもお勧めです。

 ②について、春の検診延期は秋に振り替えて対応する施設が多いようですが、秋以降も中止する施設は珍しくありません。対がん協会の調査によれば、今年の検診受診率は3割減るといわれています。がんの早期発見という点では、「今年は、まあいいか」という考え方は絶対にダメです。

 早期発見とは、がんを1センチから2センチの大きさのうちに見つけること。1つのがん細胞が1センチになるまでには大体20年かかりますが、1センチが2センチになるのは1~2年。肺がんは1年で、乳がんは2年です。つまり、がんによっては、今年の検診をパスすると、早期発見のチャンスを失う恐れがあるのです。

 実は私は毎年、東大病院で大腸内視鏡検査を受けていますが、今年は受けられませんでした。別の病院で受け、このリスクを回避しています。今年、検診を受けられない人は別の医療機関で夏のうちに受けるといいでしょう。秋は予約の振り替えで受けられない可能性がありますから。

 そして3つ目は手術の感染リスクです。一時中止した施設も、今はほぼ中止前の状況に戻りましたが、今後の感染状況次第では、再中止もあり得るでしょう。そこで放射線治療の可能性です。

 手術が中止されたとき、前立腺がんや食道がん、子宮頚がんなどでは放射線に切り替えるケースが相次ぎました。この3つのほか、肺がん、乳がん、頭頚部がんなどでも放射線の治療成績は、手術と同等です。最新の放射線なら、肺がんは4回、前立腺がんは5回の照射で終わります。もちろん通院で。

 木を見て森を見ず、にならないよう、全体の健康対策に目を向けることが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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