不登校になった私立中高生を待ち受ける厳しい現実と克服法

前例のない夏休み明けになる?(写真はイメージ)
前例のない夏休み明けになる?(写真はイメージ)

「今年はコロナの影響で、首都圏の場合は3月の春休みから5月末まで、3カ月も休校が続きました。しかも外出自粛で、夏休みよりもはるかに長い時間、すべての中高生がひきこもりのような生活を強いられたわけです。学校が再開したと思ったら、今度は夏休みの短縮。例年夏休み明けは登校できなくなる生徒が増える時期ですが、ペースの崩れる今年は不登校やひきこもりの生徒が大量に増えることは、間違いないと思いますね」

 こう話すのは、「不登校・ひきこもりの9割は治せる」(光文社新書)の著書がある、杉浦孝宣氏。

 杉浦氏が理事長を務めるNPO法人高卒支援会は、通信制サポート校・フリースクールを運営し、不登校、高校中退やひきこもりの生徒を進学や就職につなげてきた。杉浦氏によると、最近不登校・ひきこもりになるケースが目立つが、中学受験をして私立の中高一貫校に進学した生徒だという。

「小さい頃から塾に行かせて必死に勉強を詰め込んで私立中学に入ったものの、そこで燃えつきてしまい、不登校になってしまう子がかなり多いんです。親からは、勉強して一流大学に入れと言われるものの、いまはいい大学に入っても人生が安泰な時代ではないことが子供にも分かっているので、なんのために勉強するのか分からなくなってくる。勉強しつづけることを強いる中高一貫校の雰囲気にも馴染むことができず、学校に行けなくなってしまうのです」

 私立中学に通っていた場合、行けなくなったあとの進路が問題となる。自分の学区の公立中学校に入り直すと、小学校時代の同級生がいて、彼らには私立中学に行ったことを知られているものだから、いろいろ噂されてこちらも通いづらくなる。

「結局、形式的な出席を取るために、教育相談センターというところに通うものの、そこも行けなくなってひきこもりになってしまう、というケースが多く見受けられます」と杉浦氏は言う。

 高校生になってから不登校になった場合のその先の進路選びも難しい。私立高校から公立高校への転入制度は、東京都と大阪府にしか存在せず、ほかの都道府県の公立高校は、家族全体がその県に引っ越してきた場合にしか転学を認めない。また東京では、私立高校を退学してからしか転学試験を受けさせないので、試験に落ちたらその時点で高校中退になってしまう。

「結局、いま行っている高校がどうしても合わないからやめるという場合、その次の進路は通信制高校、定時制高校、高卒認定、海外留学あたりに限られてしまいます。定時制は枠自体が減っていますし、どこにも通わずに高卒認定を得るのはかなりの意志と能力が必要。海外留学はお金がかかります。いま一番多いのは通信制高校ですが、これも通信だけだと勉強のペースを保ちづらいので、塾のようなサポート校と並行して利用することが多いです。年30万円ほどの通信制高校の学費は就学支援でほぼ無料になるのですが、サポート校は年70万円ほどが自己負担になるので、親の経済的負担はどうしても重くなってしまいます」

 通信制は単位の関係で早めに動いたほうが得になることが多く、特に人気で定員を超過している学校は、8月中旬で募集を締め切ることもある。来年の4月から新学年を始めキャリアをつなげるためには、この夏から行動を始める必要があるのだ。

■変わるべきなのは親の価値観と発想力

 2016年の内閣府の調査では、学校や仕事へ行かず、半年以上自宅にどじこもっている15~39歳のひきこもりの数は54万1000人。さらに、内閣府は2019年に初めて40~64歳までのひきこもりについての調査結果を公表したのだが、その数は若年ひきこもりをさらに上回る、61万3000人に上ったという。ひきこもりは長期化するほど脱却することが困難になるため、不登校が始まった中高生のうちに、どこかの学校に通わせるなど、軌道に乗せることが肝心だ。

「引きこもりの子の親御さんと話していると、一流大学に行かなければならないといった固定観念でがんじがらめになっていて、かえって選択肢を狭めていることが非常に多いです。大学に行かなくても就職の手段はいろいろあるし、高校にも全日制だけではないさまざまな種類があります。ぜひ視野を広く持って、お子さんが再び社会との接点を持てる進路を考えてあげてください」

 コロナ禍による前例のない夏休み明けという危機を乗り切るのは、杓子定規な価値観に縛られない親の発想力なのだ。

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