新型コロナ後遺症の正体

心筋障害の報告も 心電図や血液検査以外に超音波検査が必要

新型コロナウイルスに感染し退院後も体調不良が続く人を対象にしたリハビリ施設で運動する男性=イタリア・ジェノバ
新型コロナウイルスに感染し退院後も体調不良が続く人を対象にしたリハビリ施設で運動する男性=イタリア・ジェノバ(C)ゲッティ=共同
心臓血管へのダメージ(上)

 新型コロナウイルスは心筋や血管にあるACE2と呼ばれる受け皿(受容体)から細胞内に入り、肺や腎臓のほかに心臓血管を傷つける。そのため、新型コロナウイルス感染症の患者では心筋炎も報告されている。2002年SARS(重症急性呼吸器症候群)流行時に心筋を調べたところ、35%にウイルスの感染が確認された。

 新型コロナ感染症患者の中には心筋トロポニン(心臓の筋肉細胞の中の収縮タンパク)やCK―MB(心筋細胞のエネルギーに関係する酵素)が血液中に流出して血中濃度の上昇を認めるような心筋障害が7・2%~37・5%で認められているとの報告もある。そのため、新型コロナウイルス感染症の患者では心電図や血液検査の他に心臓超音波検査が必要と言う意見もある。

 新型コロナウイル感染による心臓の機能低下の原因には、「ウイルスによる直接的障害」、「呼吸不全による低酸素障害」、「サイトカインによる炎症」、「冠動脈炎症による動脈硬化プラークの破たんや凝固能(固まり易さ)が高まることによる冠動脈血栓とこれによる急性心筋梗塞」、「冠動脈が狭くなることによる心筋酸素需要供給不均衡が原因の心筋虚血」などがある。

 新型コロナウイル感染ではこのようにして、心機能低下、心筋虚血、不整脈、不安定狭心症や急性心筋梗塞、高血圧症が生じる。

 もともと心臓の駆出機能が正常に見えても拡張障害などの基礎疾患があると、「高熱」、「頻脈」(ひんみゃく)、「脱水」、「腎機能低下」などが引金で心不全になることがある。また、「急性心筋梗塞」、「酸化ストレス」や「サイトカインストーム」による炎症が心筋障害を生じる場合がある。「間質性肺炎による肺の障害」が「右心不全」を生じることも多い。中国では、新型コロナウイルス感染症の患者全体で心不全が24%に、死亡例では49%に認められたという。しかも、心筋障害を示す心筋トロポニンやCK―MBが上昇すると、患者の予後が悪いことがわかっている。

 いずれにせよ、一度低下した心機能は完全に正常にはもどらない。特に強い心筋炎や心筋梗塞が生じれば、広範な部分が壊死して、とりかえしのつかない心不全状態を残すことになる。また、不整脈も残ることがあり、心機能が低下している場合は、心不全や突然死を起こしうる。新型コロナウイルス感染症の患者も例外ではない。

 また、新型コロナウイルスの重症患者群では不整脈がしばしば合併する。不整脈には、頻脈、徐脈、心休止などがあるが、QT延長(心電図波形の中でQ波とT波の間の時間が延びてしまい、心室頻拍や心室細動といった致死的不整脈を起こしやすい)等が認められることもある。欧米からの報告では、クロロキンもしくはヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用に関連したQT延長とTdP(QRS波の幅と長さが1拍ご.と捻じれ振動する心室頻拍) による致死的不整脈が問題になっている。

 新型コロナウイルス感染症に対してヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用による治療が有効との報告があるが、患者さんには十分な注意が必要と考えられる。

 心臓機能障害単独でも予後は悪いが、不整脈や呼吸不全が併発すると、予後は極めて悪くなる。注意が必要である。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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