子供の「眠れない」を放置すると不登校や成長の妨げを招く

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの影響で昨日・今日から新学期という学校は多い。「しばらくは睡眠覚醒のリズムが乱れる子供が増えるでしょう」と指摘するのは、子供の睡眠障害に詳しい淑徳大学看護栄養学部看護学科教授の林雅晴医師だ。

 人間の体には毎日一定のリズムを刻む「体内時計」が備わっているが、夜更かしや運動不足などが続くと体内時計が乱れ、睡眠・覚醒のリズムも乱れてしまう。

「子供にはできる限り早寝早起きをさせてください。入浴後はゲームやスマホチェックはせずにベッドへ。朝はカーテンを開けて太陽光を浴びる。一口でもいいので朝食を取ることも体内時計を整える上で大切です」(林教授=以下同)

 一時的な体内時計の乱れなら、規則正しい生活に戻すことでたいていの子供は体内時計が正しく働くようになる。

 一方、そううまくいかないのが、ADHD(注意欠陥多動性障害)や自閉スペクトラム症(ASD)といった神経発達症(発達障害)の子供たちだ。そもそも神経発達症では入眠困難や過眠、中途覚醒といった睡眠障害を併発しやすい。

「ADHDでは5割、ASDでは5~8割に睡眠障害がみられるとの報告があります。理由ははっきりと分かっていませんが、脳内の神経機能の低下が睡眠障害を引き起こしているのではないかと考えられています」

 睡眠障害では子供にしろ大人にしろ、まず「睡眠衛生指導」が行われる。要は睡眠の質を高めるための行動を意識付けることで、前述のように「早寝早起き」「朝、太陽光を浴びる」「規則正しい食生活」など。

 ただし、これだけでは不十分なケースが少なくない。検討されるのが、脳の松果体という部分から分泌されるホルモン「メラトニン」の使用だ。

「神経発達症の子供ではメラトニンが体内時計の乱れを改善し、入眠潜時(入床から入眠までの時間)を短縮すると分かっています」

■初の子供向けメラトニンが承認

 しかし日本ではこれまでメラトニンは薬として承認されておらず、試薬やサプリメントの個人輸入で用いるか、2010年に大人の睡眠障害に承認されたメラトニン受容体作動薬ラメルテオンを、使用量を少なくして子供に用いるかだった。

「子供への承認がない中で使えば、薬害が生じた時、国からの補償が一切ない。それでも、子供の睡眠障害の放置は不登校につながりかねず、薬を使わざるを得ませんでした。しかし3月、『小児期の神経発達症に伴う入眠困難』を対象にしたメラトニンが初めて承認されたのです」

 対象は、臨床試験で安全性・有効性が確認された6~15歳。メラトニンはもともと体内にある物質で、それを補充する今回の薬では重篤な副作用は認められていない。3カ月間を目安に使うこととされている。

「メラトニンを1日1回経口投与した子供たちは睡眠障害だけでなく、神経発達症特有の日中の異常行動の改善がみられ、日中の機嫌も改善。薬で質の高い睡眠を取れるようになったことで、睡眠の重要性を理解でき、薬をやめた後も、よい睡眠環境を子供自ら維持できるようになるケースが珍しくありません」

 睡眠障害は不登校だけでなく、将来的に子供の心身に多大な影響を与える可能性がある。なぜなら睡眠は、脳内物質や成長ホルモンなどの分泌に関係しているからだ。

 親から見て「もしかして」と感じられる場合は、まずは小児科医へ。

 サボリや怠けと区別しづらいケースは多々あるが、日中しっかり動いているのに夜眠れない、最も覚醒している午前中にも眠気を訴えるといった場合は、専門家の介入が必要な可能性がある。

■原因は?

 子供の睡眠障害は、胃食道逆流症、アトピー性皮膚炎、むずむず脚症候群、甲状腺ホルモンの亢進・低下なども関係している。小児科では一般的に、睡眠の記録、血液検査、アレルギー検査、鉄・甲状腺ホルモンの測定などで、原因を探り、必要があれば専門医の治療につなげる。

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