8月12日午前、タクシーで台湾の首都・台北の郊外「桃園国際空港」に着いた社会福祉団体職員の古川亮一さん(仮名=40)は、出国ロビーを横切り、搭乗受付のカウンターに並んだ。
ロビーはいつもより閑散としている。手続きを待つ順番も早かった。
カウンターでアンケート用紙を渡され、「最近、風邪をひきましたか」「この2週間の間に海外に行きましたか」「体調はよろしいですか」などの質問項目に回答記入した。
荷物を預けるときは、額にかざして測る検温を受け、手のアルコール消毒も要請された。予想していたPCRの検査はない。
機内は乗客、乗務員とも全員がマスク姿である。座席も間隔を置いて座らされ、乗客数が少なかったのか、前後の列はほぼ空席の状態だ。
機内食を済ませ、成田国際空港まで約4時間の飛行である。
乗務員の指示で、乗客が小グループに分けられ、1、2分の間隔をおいて飛行機から降ろされた。
いつもなら、長い“歩く歩道”に乗って入国審査に向かうが、この日は違う。
入国審査を前にして、各種の質問項目に回答しなければならない。
「日本滞在場所の住所、連絡方法」「成田から目的地まで、交通機関による移動方法」「健康状態」などで、記入して係官に用紙を渡すと、続いて抗原検査である。
綿棒のような器具で採取された唾液が、試験管に入れられた後に、整理番号札が手渡しされる。待機所に移動し、整理番号が記入された同じ椅子に座り、コロナ検査の結果を待つ。
抗原検査を受けるのはもちろん初めてで、病院の待合室で、がんの診断結果を待つような心境である。
「結果を待つ間、落ち着きませんでしたね。陽性だったらと思うと不安になりますよ。私の列に並んでいた日本人同士の会話を聞いていたのですが、“検査結果が出るまで7時間かかった人もいる”などと言っておりましたね」
30分ほどして係官から、淡いブルー色をした日本語と英語で表記されたハガキ大ぐらいの用紙を渡された。こう書いてある。
「検査結果通知
新型コロナウイルスの検査結果
検査日 2020/08/12
受付番号 〇〇〇〇
検査項目 抗原定量唾液
結果値 (-)
厚生労働省 成田空港検疫所」
幸いにして「陰性」だった。
陰性と知って古川さんは、少しばかり足取りが軽くなる。
入国審査を受けた後、エスカレーターで階下に下り、荷物を受け取り、荷物検査を通過した。
飛行機を降りてから、空港の玄関を出るまで、たっぷり2時間を要したのである。
重いキャリーバッグを転がし、予約していたAホテルを通過するシャトルバスを探した。乗客数は数人である。
バッグには、300枚を超える大量の白マスクが詰め込まれていた。知人の日本人から得ていた情報で、マスクの色の主流は白色と聞いていた。
さらに日本のマスクは値段が高いとアドバイスを受け、古川さんは急ぎ台北市内の薬局、スーパーを訪ねて、1枚、5、6元(日本円に換算して15~20円)のマスクを買いまくったのである。