コロナ第2波に打ち勝つ最新知識

コロナ感染という強烈な体験の「記憶」が肉体を長期的に蝕む

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢者は日々体を動かすことで、かろうじて筋肉量や体力を維持している。「不要不急の外出自粛」により、自宅に閉じこもりがちな高齢者は、筋力低下や精神的ストレスが生じ、命を縮めることにもつながりかねない。

 一方、人は骨への負荷や筋肉の伸縮により、一酸化窒素(NO)やさまざまなホルモン様物質がつくられ、血管が拡張して心臓の働きが良くなる。血圧上昇や万病のもとの慢性炎症が抑えられ、心臓血管、肺、脳神経などの内臓の働きが良くなり運動能力も維持される。

 そのリズムが狂うと簡単に精神的活力、体力と運動機能が落ちてしまう。

 困ったことに高齢者は一度失った筋力や体力は取り戻すことができず、その影響はその後の生活に大きく影響する。また、高齢者が入院すると、70代では2割、80代では4割以上で日常生活動作(ADL)が低下することも海外の研究で分かっている。

 高齢者が体を動かさなくなると、骨や筋肉が衰えるだけではない。脂肪が増え体重も増加する。血糖値は乱れ、血圧も高くなる。加齢で弱った心臓への影響もある。

 こうした肉体的変化がもたらす精神的な影響も見逃せない。外出自粛などでイライラすると家庭内でイザコザが増えて、モラハラなども起きやすくなる。また、運動不足はもとより孤独や社会的孤立などの精神的ストレスは脳神経の働きを衰えさせ、認知症のリスクをアップさせる。

 一方、新型コロナウイルス感染症では血液が凝固して血栓ができやすく脳卒中リスクが高まることが知られている。その延長として、脳卒中後うつ病や脳血管性認知症が生じる可能性が高い。まとまった報告例はないが、認知症増悪にはこの病気の併発も考えられる。

 英国リハビリテーション医学会(BSRM)の「新型コロナウイルス感染症のリハビリテーションに関する報告」によると、主な合併症の中にうつ病、不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などといった情動障害が含まれている。全身に血栓ができやすいという理由だけでなく、新型コロナに感染したという衝撃と恐怖が記憶され、こうした心の病を引き起こし、それが長期化するケースもあるのだ。

 新型コロナの8割が軽症だから大げさに考える必要がない、というのは間違いだ。感染症に対する過度な恐れ、生活自粛や病気の後遺症でその人のパフォーマンスが低下することによる気持ちの落ち込みやうつ病などの長期的な精神的影響をもっと認識した方がいい。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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