行為の最中はまれ 「腹上死」は数時間後にやってくる

(C)stella_photo20/iStock
不倫相手宅に泊まり込んでのセックスは危険

「セックスの最中に心臓が苦しくなって死んだらと思うとセックスに集中できない」という中高年も多いのではないか。

 年を重ねると心臓の調子が気になる人も多い。階段を上るのに息切れするという人はなおさらだ。

 そのせいか、有名人が愛人宅で亡くなったとか、ラブホテルで死んだなどと聞くと、「腹上死」をリアルに感じてしまう。

 実際に腹上死で逝った本人は幸せの絶頂で亡くなり、思い残すこともないかもしれない。しかし、残された愛人や家族はたまらない。元気な人が突然死した場合は医師法21条により、変死届を出すことになっている。病死なのか、他殺なのかを明らかにして社会秩序を維持するためだ。そうなると警察に根ほり葉ほり聞かれたうえ、遺体は解剖に回される。生前どんな立派な夫や父親であってもそれだけで蔑まれてしまうケースだってあるだろう。

 そもそも腹上死という言葉はどこから来たのだろうか? その由来は中国の南宋の宋慈が書いた、『洗寃集録』の一文にあると言われている。『洗寃集録』は現存する世界最古の体系的法医学書である。それには次のように書かれている。

「凡そ男子、作し過ぐること太だ多く、精気耗尽して、婦人の身上に於いて脱死する者は、真偽、察せざる可からず。真なれば則ち陽、衰えず。偽なる者は則ち痰ゆ」(およそ男子が性交をしすぎることが甚だ多く、精気が消耗し尽し、女子の体の上で虚脱して死んだとされる場合は、真偽を見分けなければなりません。真実であれば陽物はしぽんでおらず、偽りであれば陽物は萎えています)

 セックスの最中に腹上死すると遺体が“半立ち”状態になる、というのは驚きだ。医師は「死ぬと神経系の緊張は解けるのでペニスは必然的に萎縮するのでこの表現は間違い」というが、本当ならちょっと格好が悪い。

 そもそもセックスはどの程度の肉体的負担があるのか?

 ある大学病院から心筋梗塞で退院した患者にホルダー心電図をつけてもらいモニターしたところ、偶然セックス中の記録を得られた10例がある。

 それによると、セックス前は平均80.1/分だった心拍数がセックス最中は平均116/分に達したという。なかにはセックス時の心拍数が日常生活において最も高かったという例もあった。

 また、別の研究ではオルガズム期の血圧上昇は男性の場合は収縮期圧が40から100㎜Hg、拡張期圧が30から80㎜Hgで、女性の場合は、それぞれ30から80、20から40だった。呼吸は40/分を超えたという。

 問題は、中高年男性が気にするほど頻繁に「腹上死」が起きているのか、だ。    

 東京都監察医在職中に500例を超える腹上死に立ち会ったという上野正彦医師らが1963年に書いた、「いわゆる性交死について、日報医誌17」などによると、当時行政解剖により死因が明らかになった5559件のうち、性交死は34件(0.6%)に過ぎず、死因は心臓死が20件、脳出血が14件だった。興味深いのはその多くがセックスしている最中でなく、それが終わって数時間後の就寝中に起きていることだ。

 しかも、34例のうち妻が相手のケースは7例だけで、あとは愛人など不倫関係のケースだったという。場所も11例は自宅でしたが、残りは旅館であり、当時お酒を飲んでいたのは12例だった。

■飲酒は避ける

「セックスでの運動量は荷物を持って3階まで歩く程度しかありません。ですから、普通に日常生活を送れる体力がある人ならその心配は少ないと思います。ただし、セックスする環境や相手によってそのリスクが異なることは覚えていた方がいいでしょう。妻とするセックスは安全ですが、不倫は腹上死のリスクが高まります。しかも、セックスによる突然死はセックスの最中でなくその数時間後に亡くなることが多い。その意味では不倫相手と自宅の寝室でセックスしたり、家に帰らずに不倫相手と寝るような人は突然死しやすいと言えます。とくに愛人とお酒を飲んで、セックスを楽しみ、そのままお泊まりするのが一番危険だということです。セックスで突然死(腹上死)するのは、肉体による心臓への負荷が原因でなく、精神的な心臓への負荷が原因だからです」

 実際、欧米の研究で、ある男性のホルダー心電図の記録によると、昼間女友達とセックスをしたときの心拍数は96/分から156/分と大きく上昇したものの、その夜妻とセックスをしたときは72/分から96/分しか上がらなかったという。

 セックスをするとさまざまなホルモンが大量に分泌され、やさしい気持ちになったり、体の細胞を修復したりするなど人の心と体にさざまなメリットをもたらしてくれる。その意味では中高年はもっとセックスを楽しむべきだ。しかし、それを安全に楽しむには方法があることは覚えておこう。

関連記事