アバターでVR空間に参加してうつを改善 世界で初めて証明

(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの影響でうつ状態に陥る人が増えている。東京歯科大学の宗未来准教授(精神科医)らがうつ対策への新たな試みで、成果を出している。

 宗医師らが行ったのは、スマホやPCからアバターとなってVR空間で参加する遠隔型メンタルプログラム「おうちdeストレスマネジメント」だ。コロナで“遠隔”は珍しくなくなったが、「本プロジェクトはコロナ前から始動しており、付け焼き刃ではないコンテンツが受けられる」と宗医師が言う。

 理由はいくつかある。うつ病には認知行動療法などの心理的サポートが重要。宗医師はそれらを英米で学んだエキスパートだが、日本では精神科医による治療は通常短時間の上、心理専門家によるカウンセリングも公的制度化が十分とはいえず、必要な人が気軽に受けられる状況にはない。

 グループセラピーという効率的な方法はあるものの、“赤の他人”と顔を合わせるのは抵抗が大きく、参加する人数にも制限がある。

 平日昼間での開催が多く、会社勤めの人などには参加しづらい。地方によっては行われている場所も限られ、現状では感染リスクが怖い。

「VRセラピーなら場所を問わず参加でき、調子が悪ければ途中で抜けられ、興味のないテーマなら気兼ねなく休める。20時開始のアバター参加なので自宅や通勤中でも、他人の目を気にせずにリラックスして参加でき、話にも集中できます。また『自分一人ではないんだ』という赤の他人との不思議な連帯感がモチベーションを上げるという声も多く聞かれます」(宗医師=以下同)

 プログラムは、宗医師が都内大学病院で6年間にわたり精神疾患患者向けに実践してきた教材を一般向けに改変。海外駐在員も含むうつの会社員16人を対象にした2020年2~3月の前後比較試験では、プログラム後のうつ改善が実証された。

 さらに7月からはプラセボと比較する厳密な無作為化比較試験で検証が行われた。対象は全国のうつに苦しむ100人。VR空間でのグループ心理セラピーは国内外ともに例がなく、これだけ大規模な遠隔セラピーの効果報告もないという。

 プログラムは週1回60分(30分レクチャー、30分質疑応答)を全6回で構成。内容は、「苦悩と距離を置く技術」「消えない疲労の超回復法」「不安やモヤモヤが減衰していく“正しい”呼吸」「囚われを断ち切る科学的メソッド」「“半歩前”に気付ける自滅回避術」「“こころ”の癖を直す方法」など多岐にわたり、かつ具体的だ。

「レクチャーはアバターに扮した私が行いますが、直感的に内容が深く頭に入ってくるように図解が駆使されています」

■3カ月後も効果あり

 レクチャーを理解後は、アプリでの自主練やオンラインサロンでの交流や質疑応答も可能。

「世界的にはメンタル領域でも治療アプリが登場していますが、ユーザー人気に欠けているのが現状です。どんなにいい問題集であっても、それだけを必死に解くだけの受験生は応用が利かないのと一緒で、“いい講義”を受けた“基本”を本質的に理解してからでないと、メンタルでも実生活で使える力にはつながりません」

 最近この結果が出た。

 本プログラム参加者50人と、「健康についてのコラムを読む」プラセボ群50人とで、うつ状態の変化を比較。結果、全6回の終了時こそグループ間で差はなかったが、終了3カ月後にはVRグループだけに有意なうつ状態の改善が認められた。

「なぜ終了直後ではなく3カ月後にうつ状態が改善したのかはさらに分析が必要ですが、この結果で明らかなのは、『VRで』『アバターで』参加するプログラムにより、抗うつ効果があったということです」

 現在、大規模トライアルへの参加者募集中。無料体験が可能だ(https//v-sensei.com)。

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