再度のがん報道に驚きました。中咽頭がんを克服した音楽家の坂本龍一さん(69)が、直腸がんであることを公表。幸い手術は成功し、治療を続けているといいます。
結腸と直腸からなる大腸がんは、日本人に最も多いがんです。1年間に大腸がんで亡くなる人は米国を上回っていて、坂本さんのニュースは他人事ではないでしょう。
大腸は、小腸を上からコの字形に囲む結腸と肛門に続く直腸に分かれます。大腸全体の10%に過ぎない直腸に、全大腸がんの5割が発生。直腸はがんができやすい部分で、結腸のうち直腸につながるS状結腸を含めると7割に上るほどです。
大腸がんができる部位で比較すると、意外なことが分かってきました。右側は治りにくく、左側は治りやすいのです。
米カリフォルニア大などの研究チームは、手術不能の大腸がん患者を、右側にできた約290人と左側にできた約730人に分けて比較。すると、生存期間の中央値は、左側が33・3カ月で、右側が19・4カ月。大きな差が見られたのです。日本の研究でも、左側の生存期間は3年で、右側を約2年も上回っていました。
右側は、結腸のうち上行結腸と横行結腸の一部で、左側は横行結腸の残りの部分と下行結腸、S状結腸、そして直腸です。坂本さんも直腸がんということで、左側。大腸の右側でなかったのは、よかったと思います。
直腸がんを治療する上で重要なのは、肛門との距離です。がんが肛門に近いと、肛門も一緒に切除するため、人工肛門を余儀なくされることがあります。直腸を肛門に遠い方から直腸S状部、上部直腸、下部直腸に分類。がん研有明病院で2005~11年に手術した1046人の永久的な人工肛門発生頻度は順に0%、5%、23%でした。
自分の意思で排便できるかどうかは、人間が生活する上でとても大切なこと。QOLが大きく左右されますから、肛門を温存する治療法も、開発されています。
たとえば、肛門のすぐ近くにできたがんでも、早期なら肛門を締める肛門括約筋の部分切除をした上で直腸と肛門を縫合。肛門から排便する機能を温存できます。
その場合、一時的に人工肛門を作ることがありますが、大体3~6カ月後には、それを除去して、本来の肛門から排便できるようになります。その結果、永久に人工肛門を余儀なくされるのは、直腸がん全体で12%にとどまっています。
もう一つは手術の前の放射線です。放射線でがんを小さくすると、肛門温存だけでなく、手術が不可能なほど進行したがんが手術できるようになることもあります。
坂本さんは「これからは『がんと生きる』ことになります。もう少しだけ音楽を作りたい」とコメントを発表しました。前向きに「がんと生きる」ためにも、大腸がん検診を受診して、早期発見に努めて欲しいと思います。
Dr.中川 がんサバイバーの知恵