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子供の斜視の手術は難しいものなのでしょうか?費用は?

獨協医科大学 眼科学教室教授の妹尾正氏
獨協医科大学 眼科学教室教授の妹尾正氏(提供写真)

 子供の斜視には、生後6カ月以内に発症する先天性の斜視(乳児性内斜視)と6カ月以降から3歳ごろまでに発症する後天性の斜視(多くは遠視が原因の調節性内斜視)があります。

 乳児性であれば多くの場合で手術が必要です。調節性の場合、遠視用の眼鏡(プリズム眼鏡)のみで治療できることもありますが、3カ月以上経っても、眼位にズレが残っていれば「部分調節性内斜視」である可能性があるので、治療や訓練を続けながら、手術をすることになります。いずれも、眼科にかかってから半年から1年の間で手術の決断をします。

 手術は眼科の専門医や大学病院で行えば失明などのリスクはありません。ただ、6歳以下の手術は全身麻酔になるので、4日ほどの入院は必要です。

 手術は簡単で、眼球表面の結膜を切開し、筋肉をずらして目の位置を調整します。眼球に付着して眼球を動かす筋肉は、内直筋、外直筋、上直筋、下直筋、上斜筋、下斜筋の6本あり、手術費用は、ずらす筋肉の本数によって変動します。1本でおよそ4万円。保険適用手術となりますから、3割負担の場合は1本1万2000円になります。これに麻酔の費用を加算します。

 乳児性の場合、遺伝のほかに脳腫瘍などで脳の神経が異常をきたし、筋肉が機能していなかったり、両目に白内障があって視力が発達していないために斜視となるケースもあります。脳腫瘍などで、そもそも筋肉が機能していない場合は、筋移植が必要で、費用は最高でも19万円前後(3割負担の場合は5万7000円程度)でしょう。

 ただし、手術は一度行えば万全とは言えません。十数年経って再び目の位置にズレが起きることはあります。再手術のリスクを避けるには、術後も遅くとも10歳までに適切なリハビリを受けて、視力を正常に戻しておく必要があります。

 そのため、術後は「視能訓練士」の国家資格を持つ専門家が付いて、弱視の訓練をします。たとえば、矯正用眼鏡を掛けて網膜の中心部にピントを合わせることで、視機能の発達を促したり、視力の良い方の目をアイパッチ(眼帯)で隠して片方の目のみを集中的に使う訓練を行います。

 最終目標は、両目で見た像をひとつに統合する“立体視”で物を見られるようにすること。斜視の子供は右目と左目を別々に使っていたため、立体的に見るのが難しいのです。

 また視力の回復を促すためには、訓練は日常的に行うことが望ましく、親は視能訓練士からケアの指導を受けて、自宅でも実践してもらいます。親のサポートが不可欠なのです。

▽妹尾正(せのお・ただし) 1986年3月独協医科大学医学部卒業。90年7月厚生連石橋病院眼科医長、91年6月日本眼科学会認定眼科専門医に。2002年7月独協医科大学眼科学教室助教授、06年4月から同大眼科学教室教授を務める。さまざまな医療現場で活躍するスーパードクターたちが出演の公式YouTubeチャンネル「SuperDoctors -名医のいる相談室-」でも解説します。

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