今月12日には、高齢者3600万人のワクチン接種が始まる。ただし、国から自治体へのワクチンの配送は5月中旬ごろまでに820万人分と全体の4分の1程度だ。供給を増やすには、もっとワクチンの承認・使用許可を出さなければならないが……。
【Q】厚労省のワクチン承認・使用手続きはどうなっているのか
【A】厚労省は2月に、米製薬大手ファイザーが申請した新型コロナウイルスのワクチンを日本の第1号として、正式に薬事承認した。緊急時に審査を簡略化できる「特例承認制度」による審査で、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の第14条の3に基づく。
要件は、①疾病の蔓延防止等のために緊急の使用が必要、②当該医薬品の使用以外に適切な方法がない、③海外で販売等が認められている、を満たすことだ。
国際的な試験の第Ⅱ/Ⅲ相試験のデータと、日本人における安全性や有効性、免疫原性を評価した国内第Ⅰ/Ⅱ相試験のデータを含めて、科学的エビデンスに基づいた医薬品であることが認められる必要がある。
「免疫原性は、接種した人の血清中の抗体価が感染や発症を防ぐレベルに達した人の割合を見て判断します。また、臨床試験での有効性とは、接種群と非接種群の発症率の差を比較し、ワクチン接種によってリスクが10分の1近くになることです」
特例が認められると、臨床試験以外の承認申請資料を承認後に提出できる。だから早期の承認が可能になる。
現在、日本ではほかに米モデルナと英アストラゼネカが承認される予定だ。ワクチン開発から承認・使用許可までのスケジュールは世界共通で決められているが、どの段階でGOを出すかは各国の専門機関の判断に委ねられる。
「特例制度の前提として、対象の医薬品は日本と同等の水準で、品質や有効性、安全性を確保する承認制度のある国のものと定められています。日本は承認や使用許可の基準が米国やEUと同一ですから、そこがファイザーが承認された理由として大きいでしょう」
【Q】日本が特例制度を設けたのはなぜか。ワクチン開発から販売まではどのくらいかかるのか
【A】「通常はワクチンの製造・販売の申請を行ってから早くて1年以上、通常4年以上かかっています。今回のような緊急を要するときは大きなネックになります。欧米や中国のように国が主導して急速にワクチン開発に取り組めるならいいですが、日本人は予防接種への抵抗も強く、世論を踏まえて政府の方針を出すのに極端に時間がかかります。他国で販売されている日本国内未承認の新薬を、簡略化した手続きで承認できる法律は必要だったわけです。パンデミック時には一日も早く火種を消すために、外国での臨床データを考慮しつつ早急に承認すべきです」
【Q】過去にこの特例制度を利用した例はあるのか
【A】 特例承認を最初に受けた新薬は、2010年1月に承認された「新型インフルエンザ」の輸入ワクチン「アレパンリックス(H1N1)筋注」ともう一種の2つ。
「20年には新型コロナウイルスの治療薬として、エボラ出血熱の治療薬として販売されていたレムデシビルが、申請からわずか3日で承認されています」
次回は、従来ワクチン開発から承認・使用許可までの治験内容や現時点で世界で採用されているワクチン一覧を紹介する。
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