病気を近づけない体のメンテナンス

肺<上>ティッシュ飛ばしテストと呼吸筋ストレッチで衰え改善

機能のピークは20代だが…
機能のピークは20代だが…

 肺は、血液を介して酸素と二酸化炭素を交換している器官。吸い込んだ空気が通る気管は2つに分かれて気管支となり、左右の肺に入るとさらに枝分かれを繰り返して細くなり、左右合わせて100万本以上になる。

 その気管支の先端には「肺胞」と呼ばれる小さな袋がブドウの房のようにいくつも付いている。肺胞ひとつの大きさは直径0・2~0・5ミリほどで、成人では片方の肺に3~5億個あるとされている。

 この肺胞の壁には肺動脈や肺静脈につながる毛細血管が網の目のように張り巡らされていて、ここで酸素と二酸化炭素のガス交換が行われる。肺機能のピークは健康な人でも20歳前後で、その後は加齢とともに少しずつ低下していく。

 しかし、衰えていくのは肺という臓器自体だけではない。日本呼吸器学会指導医・専門医で「池袋大谷クリニック」(東京・豊島区)の大谷義夫院長が言う。

「肺は、自ら膨らんだり縮んだりすることができません。肺の周囲にある呼吸を行うための筋肉が、肺の収まっているスペース(胸郭)を動かして肺を膨らませたり、しぼませたりしています。この呼吸に使う筋肉を総称して『呼吸筋』といいます。呼吸筋も20代をピークに、だんだん衰えてきます。呼吸筋が衰えると、少しの運動で息苦しくなったり、気管に入った病原体を吐き出す力=咳が弱まるので、病気のリスクが高まります」

 呼吸筋は約20種類あるが、主な呼吸筋は「肋間筋」と「横隔膜」。補助的なものとして「腹直筋」や「胸鎖乳突筋」などがある。

 肋間筋は肋骨と肋骨の間にある筋肉で、息を吐くときに使う「内肋間筋」と、吸うときに使う「外肋間筋」がセットになっている。

 この肋間筋を使う呼吸が、上体を起こした状態ですることが多い「胸式呼吸」になる。

 横隔膜は肋骨の下端にあるドーム状の大きな筋肉。横隔膜が縮むと下に動いて肺が大きく膨らみ、緩むと上に動き肺がしぼむ。この横隔膜を使った呼吸が、あおむけに寝たときに自然と起こる「腹式呼吸」だ。

「呼吸筋の状態は、医療機関でスパイロメーターという機器を使い、肺活量や吐く勢いを調べることで『肺年齢』として詳しく把握することができます。家庭で行える肺年齢を調べる簡易的な方法に『ティッシュ飛ばしテスト』があります。しかし、やり方が悪いと正確性に欠けるので、判定はあくまで目安として理解してください」

「ティッシュ飛ばしテスト」のやり方はこうだ。テーブルの上にティッシュペーパーを1枚ふんわりと置き、120~180センチくらい離れた位置から思いっきり息を吐く。どれくらい離れた位置からティッシュを吹き飛ばせたかを確認する。ティッシュからの距離とおおよその肺年齢は次のようなものだ。

【判定】
●160センチ=男性40代/女性30代後半
●150センチ=男性50代/女性40代
●140センチ=男性60代/女性50代
●130センチ=男性70代/女性60代
●120センチ=男性80代前半/女性70代前半

 肺の衰えが分かっても、肺そのものを鍛えたり若返らせることはできない。しかし、呼吸筋は体の他の筋肉と同じで鍛えることができる。ティッシュ飛ばしテスト自体も呼吸筋のトレーニングになるが、簡単にできるストレッチがある。

【呼吸筋を鍛えるタオルストレッチ】
①両足を肩幅に開いて立ち、タオルを肩幅の広さで両手に持つ。横隔膜を意識して、ゆっくりと息を吸いながら腕を持ち上げる。
②横隔膜を意識して息を吐きながら腕を下ろす。
③息を吸って腕が上がった状態から、息を吐きながら体を右にゆっくり倒し、左わきを伸ばす。
④反対側も同時に行う。

①~④を繰り返して、2分間行う。

■肺機能には食べ物も関係している

 食べ物も肺の健康に影響を与える。欧米の研究では、ベーコン、ソーセージ、ハムなどの加工肉をよく食べる人は、肺機能の低下やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の発症リスクと関係があると報告されているという。

「逆に経年的な肺機能低下を抑える効果のある食品や栄養素も報告されています。新鮮な果物や野菜に含まれる『ビタミンA、C、E』『βカロテン』『ポリフェノール』などの抗酸化物質。青魚に多く含まれるEPAやDHAなどの『n―3系多価不飽和脂肪酸』が挙げられます。中でも『リンゴ』の摂取量が多いと良好な肺機能を示すというデータがあります」

 次回は、病気でない「息苦しさ」の原因と対処法を紹介してもらう。

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