これまで“おまけ”として考えられていた心臓の右心室が心臓突然死と深く関わっていることがわかり、注目されていることを前回お話ししました。今回は「心房」を取り上げます。
心臓は「右心房」「左心房」「右心室」「左心室」という4つの部屋に分かれていて、それぞれの部屋は壁で仕切られています。右心房と右心室、左心房と左心室は「弁」でつながっていて、血液が逆流しないような構造になっています。全身を流れている血液は、全身↓右心房↓右心室↓肺(ガス交換)↓左心房↓左心室↓全身という経路で循環しています。
全身を巡ってきた血液が流れ込む右心房、肺から血液を受け取る左心房は、それぞれ右心室、左心室に血液を送っていますが、全身に血液を押し出す左心室に比べると大きな圧力は必要ありません。しかし、心房には心臓の「拍動」をつくる重要な働きがあります。
心臓は常にポンプのように収縮と拡張を繰り返す動き=拍動によって、血液を循環させています。一般的には1分間に60~80回の拍動が行われ、規則正しいリズミカルな拍動によって血液循環が保たれているのです。
拍動は電気信号によってコントロールされていて、電気信号は右心房と上大静脈の境界にある「洞房結節」という部分から発生します。生じた信号は右心房と右心室の境界にある房室結節に伝わり、さらに心臓全体に広がっていきます。つまり、右心房はペースメーカーの役割を担っているのです。
この右心房で生じる電気信号が、心臓の別の場所から無秩序に発生することで起こるのが「不整脈」です。電気信号がうまくコントロールできなくなるため、拍動が不規則になります。1分間に60~80回の規則的な拍動が、50回未満に減ると「徐脈」、逆に100回以上に増えると「頻脈」と呼ばれます。また、拍動のタイミングがずれる「期外収縮」というタイプもあります。
期外収縮はよく見られる不整脈で、多くの場合は気にする必要はありません。ただ、期外収縮がきっかけで起こる「心房細動」は注意が必要です。
■異常な電気信号が発生
心房細動のほとんどは、左心房につながる2本の肺静脈付近で発生する異常な電気信号によって起こります。心房が細かく不規則に収縮を繰り返して痙攣したような状態になり、動悸や息切れの症状が表れます。血流が悪くなるため血栓ができやすくなり、心原性脳梗塞や心不全につながって死を招くリスクがある不整脈です。加齢が大きなリスク要因で、高齢化が進んでいる日本では患者さんが増えています。
拍動をつくっているという点から考えると右心房の方が重要ですが、心房細動の原因になる左心房にはより注意が必要といえます。
心房細動の原因が左心房にあることは、以前からよく知られていました。全身から血液が流れ込む右心房に比べると、全身に血液を押し出す左心室に血液を送る左心房の方が大きな圧力がかかるため、トラブルが生じやすいのです。たとえば、年を重ねると左心房と左心室をつないでいる僧帽弁が傷みやすくなり、僧帽弁閉鎖不全症が起こります。僧帽弁がきちんと閉じないために血液が逆流すると、負荷がかかる左心房は徐々に拡大していきます。すると、左心房に異常な電気信号が発生して心房細動の発症につながるのです。
心房細動そのものは致死的な不整脈ではありませんが、先ほどもお話ししたように脳梗塞や心不全といった命に関わる疾患につながります。自覚症状がないからといって放置してはいけません。早期に発見して適切なタイミングで治療を始めることが重要です。
治療はまず脈拍数を抑える抗不整脈薬や、血栓をできにくくする抗凝固剤による薬物療法を行うのが一般的です。それで効果がみられない場合は、「カテーテルアブレーション」(カテーテル焼灼術)が検討されます。太ももや肘からカテーテルを挿入し、異常な電気信号を発生させている部分に高周波の電気を流して焼く方法です。慣れている医師が行えば成功率は90%以上といわれ、完治も望めます。
心臓の構造や役割から発症しやすい疾患の研究が進み、治療もさらに進歩することを期待しています。
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