医者も知らない医学の新常識

糖尿病の薬が心不全にも効くのか? 世界的医学誌で報告

写真はイメージ
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 心不全とは、老化や不整脈、心筋梗塞などさまざまな理由で、心臓の働きが高度に低下した状態のことです。心不全の治療に特効薬はありませんが、最近、糖尿病に使用する薬の一部が心不全にも効果があるとして注目されています。それはSGLT2阻害剤というタイプの飲み薬です。

 この薬は尿中に出る糖の量を増やして、血糖値を低下させる働きのある薬です。尿の量が増えるので脱水になる危険がありますし、尿中に出る糖分が増えると、膀胱炎などの感染症にもかかりやすくなります。

 尿中に糖を出して一時的に血糖値を下げても、それで糖尿病が治るというわけではありませんから、発売の当初はその効果を疑問視する意見もありました。ところが、この薬を使用することで、糖尿病のコントロールが改善するばかりでなく、動脈硬化の病気が減り、寿命も延びることが報告されてから、一気に注目度が上がりました。

 中でも注目されたのが心不全に対する効果です。2015年の「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」という一流の医学誌に発表された論文によると、この薬を使うことで、心不全による入院のリスクが35%も低下していたのです。そうした結果を受けて、SGLT2阻害剤を心不全の治療薬として使おう、という動きが今では世界的に広がっています。糖尿病の優秀な治療薬は心不全の薬でもあったようです。

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。

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