加齢で衰えるが…「噛む力」を維持すれば心臓病を予防できる

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「噛む力」が弱い人は、循環器疾患になりやすい――。日本の一般住民を対象とした研究で、そんな相関関係が明らかになった。噛む力を維持することを意識すれば、日本人の死因の第2位である心臓疾患を予防できるかもしれない。

 国立循環器病研究センター、新潟大学、大阪大学の共同研究チームが、大阪府吹田市の一般住民を対象としたコホート研究を解析。50~79歳の一般住民のうち歯科検診を受診した1547人を追跡したところ、噛む力=最大咬合力が低い人は、高い対象者に比べて循環器疾患の新規発症リスクが最大5倍も高いことがわかった。

 これまで、口腔内の環境と循環器疾患の関連を調べた研究はいくつも報告されているが、そのほとんどは歯周病について検討したものだった。それが今回、「噛む力」そのものが心筋梗塞などの循環器疾患と大きく関係していることが明らかになったのだ。

 なぜ、噛む力が弱いと循環器疾患を発症しやすくなるのか。小林歯科医院の小林友貴氏は言う。

「まだはっきりした理由はわかっていませんが、いくつか考えられる要因で、まず挙げられるのは食事の影響です。高齢になると全身の筋力が衰え、噛む力=咬合力も低くなります。そうなると、食べ物をうまく噛み砕けなくなるため、野菜や肉といった硬いものをだんだんと避けるようになっていきます。実際、咬合力が低いと緑黄色野菜や魚介類の摂取が少なくなるという報告もされています。また、咬合力が低くなると、逆に糖質が多く含まれた軟らかいものを選んで食べるようになる。その結果、栄養バランスが崩れ、動脈硬化を予防する働きがある食物繊維や抗酸化ビタミンなどの摂取が少なくなり、循環器疾患の発症リスクが高まることが考えられます」

■全身の血流にも影響

「噛む」という運動そのものが関係している可能性もある。

 われわれが上下の歯を合わせて噛む動作をすると、「噛んだ」という情報が脳の視床下部に伝わり、脳内で「ヒスタミン」という生理活性物質が産生される。ヒスタミンは、アレルギー反応、炎症、睡眠と覚醒、食欲調整などさまざまな働きに関わっていて、産生されると交感神経が刺激される。その刺激により内臓脂肪が燃焼して熱が発生すると、脳は熱を放出して体温を一定に保つため血管を広げ、全身の血流がよくなるのだ。

「噛むという動作が脳の血流を増やし、脳を活性化することも報告されています。とりわけ、記憶をつかさどる海馬や、意欲や集中力をつかさどる前頭前野の血流が増えて活性化するといわれています。噛むときには咀嚼筋などの筋肉や頭部の骨を使います。そのため、噛むと顔をはじめとした上半身の血流がよくなることも知られています」

 噛む力が低下して噛む機会が減っていくと、血流が悪くなって循環器疾患の発症に影響すると考えられる。だからこそ、噛む力をしっかりキープすることが肝心だ。

「噛む力は、口腔内の環境と大きく関係しています。たとえば歯周病などで歯を失ってしまうと、歯の本数が減って噛む力が低下してしまうのです。歯周病を予防して歯の健康を保つことはもちろん、歯が抜けてしまったときはインプラントや入れ歯を適切に使えば、噛む力を低下させずに維持することができます」

 心臓突然死を防ぐためにも、日頃から「しっかり噛めているかどうか」を意識し、歯にトラブルがある人はきちんと治療しておきたい。

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