病気を近づけない体のメンテナンス

のど<下>誤嚥を防ぐ3種類のトレーニング法 何歳からでもOK

写真はイメージ
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 のどの力は40~50代から衰え始めるとされる。しかし、のどの衰えは健康診断では見つけられないし自覚もしにくい。対策を取らずに放置していると高齢になって「誤嚥」を起こしやすくなる。それが健康寿命を短くし命を失うこともある。

 誤嚥とは、本来なら食道に送られるべき飲食物や唾液が気管や肺に入ってしまうこと。この誤嚥をきっかけにして細菌が肺に入ることで肺炎を起こすのが「誤嚥性肺炎」だ。70代になると肺炎で亡くなる人の割合が急激に増えるが、その原因の60~80%が誤嚥性肺炎とされているのだ。

 のどの力、飲み込む力が衰えると「よくむせる」「痰がからむことが増えた」などの症状が出やすくなるが、目に見える体の変化もある。のど仏の位置が下がる現象だ。のど仏の高さは20~30代の頃に最も高く、40代になると下がり始め、60代に入ると急激に下がるといわれる。のどの力が急激に衰えるのも60歳を過ぎてからだ。

 大手民間病院グループ「カマチグループ」のリハビリテーション関東統括本部長である稲川利光医師が言う。

「“ゴックン”という飲み込みの動作をするとき、喉頭が前上方に引き上げられ、喉頭蓋が気道の入り口を塞ぎます。このときに働く『舌骨上筋群』『舌骨下筋群』といった筋肉は、喉頭自体を支える役割も果たしているのですが、これらが衰えてくると、喉頭を持ち上げる力が弱くなるだけでなく、喉頭の位置も下がってきます。喉頭の位置が下がると、明らかにのど仏の位置も低くなります」

 喉頭の位置が下がり、同時に喉頭を持ち上げる力が弱くなると気道の入り口を塞ぐ喉頭蓋が閉まるのが遅れたり、閉まり切らなかったりということが起こる。すると飲食物や唾液が気道に入りやすくなり誤嚥の可能性が高まるのだ。顔を洗うときや歯を磨くときなどに鏡を見ていて、昔よりものど仏が下がってきたかもと感じたら要注意という。

 しかし、のど仏が下がってきても心配はいらない。のどの筋肉は体の他の部位と同じで、何歳からでも鍛えられる。ここでは喉頭を持ち上げるために使う筋肉を鍛える3種類のトレーニング法を稲川医師に紹介してもらう。それぞれのやり方はこうだ。

■おでこ体操

①背筋を伸ばして、顎を引く。額の中央に左右どちらかの手のひらを当てる②おヘソをのぞき込むようなイメージで、お辞儀をするように頭をゆっくりと前方に倒していく。額に当てた手のひらは、その力に対抗して上方向に額を押し戻すようにする。首の前側にグッと力が入ったところで、5秒キープする。このとき体ごと前方に倒れないように注意する。①②を2セット、1日数回行う。

■顎持ち上げ体操(開口訓練)

①背筋を伸ばして、肩の力を抜く。両手の親指を下顎に添える②頭を動かさないように、力を込めて口を開けるようにする。両手の親指は、口が開くのに対抗するように下から押し上げる。10秒間しっかり口を開けるのを5回×2セット行う。

 1日、できる範囲で数回行う。

■シャキアトレーニング

①床やベッドの上にあおむけに寝る。脱力してリラックスする。腕は、体側に沿って伸ばす②両肩は床につけたまま、自分のつま先が見えるまでゆっくり頭部を持ち上げる。なるべく顎を引く。この姿勢を30秒~1分キープする。

 1分間の休憩を挟みながら、合計3セット行う。

「通常、食物は口腔内で咀嚼されて、唾液と混ざりながら、舌の上で飲み込みやすい大きさ、形状になります。しかし、舌の筋力が弱いと食塊形成がうまくいかずに、飲み込み反射に合わせた舌の送り込みのタイミングも遅れて誤嚥しやすくなります。舌の筋力を鍛えて、動きをよくすることも大切です」

■舌出し体操

①舌をべーっと下に向かって大きく出す。その後、舌を鼻に向かってできる限り上に向ける。この舌の上下の移動を10回繰り返す②舌をなるべく大きく出して、できる限り左に伸ばす。次に右に向かってできる限り伸ばす。この舌の左右の移動を10回繰り返す③今度は大きく出した舌を上、下、左、右の順に動かし、10回繰り返す。

 また、舌や口の動きをよくするトレーニング法には、「パ」「タ」「カ」「ラ」の発声を繰り返す方法などもある。

 いまからのど周囲を鍛えて、人生100年時代に備えよう。

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