役に立つオモシロ医学論文

スポーツは観戦するだけで高齢者のうつ病リスクが低下する?

2019年ラグビーワールドカップで盛り上がる観客
2019年ラグビーワールドカップで盛り上がる観客(C)日刊ゲンダイ

 スポーツと健康状態の関連性を検討した研究論文は数多く報告されています。しかし、そのほとんどがスポーツをすることによる健康への影響を調査したもので、スポーツ観戦がもたらす健康状態の変化についてはよく分かっていませんでした。

 そんな中、スポーツ観戦の頻度と抑うつ傾向の関連性を検討した研究論文が、世界的にも有名な科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」の電子版に2021年5月19日付で掲載されました。

 この研究では、日本に住む65歳以上の高齢者2万1317人が対象となり、スポーツを観戦した頻度や抑うつ症状の度合いについて調査しています。スポーツ観戦の頻度は「週に1回以上」「月に1~3回」「年に数回」「観戦していない」の4つ。観戦の手段として競技場などでの現地観戦、テレビやインターネットでの観戦の2つに分類、抑うつ傾向(15点満点の評価尺度で5点以上)との関連性が検討されました。

 その結果、スポーツを観戦していない人と比べて、テレビやインターネットで観戦する頻度が年に数回の人で8%、月に1~3回の人で11%、週に1回以上の人で17%、抑うつ傾向のリスクが低下しました。また現地での観戦も同様に、年に数回の人で20%、月に1~3回の人で21%、抑うつ傾向のリスク低下が示されています。

 スポーツを観戦することは主観的な幸福度を高めるだけでなく、社会的なつながりを強めることで精神面に良い影響を与えているのかもしれません。論文著者らは、高齢者に対してスポーツ観戦チケットや割引券を配布したり、テレビやインターネットのスポーツ番組を充実させたりすることは、うつ病予防のための有効な選択肢になり得るかもしれないと結論しています。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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