白内障治療の最前線 眼鏡がほぼ不要になる「眼内レンズ」が登場

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 白内障は、患者の9割が65歳以上だ。加齢でリスクが高くなるため、だれでもなる可能性はある。世界トップレベルの白内障手術を行う東京歯科大学水道橋病院眼科のビッセン宮島弘子教授に、白内障治療について聞いた。

 白内障は、カメラのレンズに相当する水晶体という部分が濁り、視力が低下する病気だ。

 点眼薬は予防程度の効果しかなく、治療となると手術。手術では、角膜を切開して濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを入れる。「軽症のうちは点眼薬で、生活や仕事に支障が出てきたら手術」というのがこれまでの流れだったが、欧米を中心に変わりつつある。

「白内障のごく早期で手術を受ける人、白内障でなくても手術を受ける人が出てきているのです」

 白内障手術の安全性が高まっていることに加え、眼鏡がほぼ不要になる眼内レンズが登場したからだ。

 眼内レンズには、単焦点レンズと多焦点レンズがある。単焦点レンズは近距離か遠距離の1カ所に焦点が合うもので、焦点が合わない方を見るときは眼鏡が必要だ。

「眼鏡ほぼ不要」が期待できるのは、多焦点レンズ。回折型、連続焦点型、焦点深度拡張型があり、回折型は長らく遠方と手元、あるいは遠方と中間に焦点が合う「2焦点」しかなかったが、現在は遠方、中間、手元に焦点が合う「3焦点」が発売されている。

「3焦点と連続焦点型(以下、2つ合わせて『3焦点型』)は、遠くから中間、手元まで全体を見ることができ、眼鏡なしで過ごせるようになる人が多い。一方、焦点深度拡張型は単焦点と同じぐらい遠くが見え、見える範囲が中間まで広がりますが、手元の見え方は、3焦点型より劣ります」

 たとえば講演会で、3焦点型は舞台上のスクリーンの文字も、パソコンやノート、スマホも眼鏡なしで見える。焦点深度拡張型は、場合によってはノートやスマホを見るには眼鏡が必要。

 では、3焦点型が万人にベストかというと、そうではない。

■コントラストや感度が落ちる

「明暗の対比を見分けるコントラスト感度が、3焦点型では10~15%くらい落ちるといわれています。焦点深度拡張型や単焦点レンズは、コントラスト感度が良好のまま保たれます」

 そのうち慣れる人も少なくないが、まれではあるものの、ずっと見えづらさを訴える人もいる。

 また、夜間のまぶしさ(ハロー・グレア)が起こることもある。

■費用がかかる

 単焦点レンズは保険適用で自己負担額が片目3万~5万円。多焦点レンズは保険が利かなかったが、2020年4月から基本的な手術は保険、多焦点の差額が保険適用外で自己負担という「選定療養」の対象になった。以前より費用が安くなったものの、自己負担額が片目で20万円前後から30万円前後(施設で異なる)。

■ほかに目の病気がある場合は不可

 緑内障などほかの目の病気があり、多焦点レンズの性能を十分に生かしきれない場合は、不可になる。

 単焦点レンズは、ほかの目の病気があっても入れられる。

「どの眼内レンズを選ぶかは、どういう見え方をしたいかによる。眼鏡をかけることに抵抗がなければ単焦点レンズでいいでしょうし、極力眼鏡をかけたくなければ3焦点型が最適でしょう」

 眼内レンズの耐久性は保証されており、若年で入れても問題ない。なお白内障がなく、眼鏡を使いたくないからと眼内レンズの手術を受ける場合は、選定療養の対象にならないので、前出の値段より高額だ。

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