コロナ「第5波」医療現場の最前線「効果的な治療が確立されるも入院できず」

新規陽性者は増える一方
新規陽性者は増える一方(C)日刊ゲンダイ

 感染力が強いといわれる「デルタ株」が猛威を振るい、日本では新型コロナウイルスの感染が再び急拡大している。中でも東京都は新規陽性者数が全国最多で、自宅待機者数は2万人を突破。コロナ患者を受け入れる病床の不足が現実になっている。最前線の状況を東京・江戸川病院グループで臨床にあたっている伊勢川拓也医師(総合診療科部長)に聞いた。

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 これまで江戸川区では、PCR検査で陽性が判明した人のうち、基礎疾患を抱えていたり、高熱などの症状がある人を「重症化の危険があるハイリスク患者」としてリストアップ。該当者はおおむね30~40人で、酸素飽和度を測るパルスオキシメーターを配布して経過を観察し、39度近い高熱が5日以上続いていたり、酸素飽和度が95%を下回るような患者を入院の対象としていた。

「しかし、デルタ株は感染力が強いうえに基礎疾患がない人も重症化するので、いまはハイリスクにリストアップされる患者が130人以上まで増えています。しかも入院の対象は、酸素飽和度が90%程度まで下回るなど、『すぐに入院しなければ死亡するリスクが高い』と保健所から判断されたケースに絞られています。病床数が逼迫しているからです」

 8月18日時点で、東京都はコロナ患者を受け入れ可能な病床を5967床確保していて、3815人が入院中と発表している。まだ2000床近く余剰があるように見えるが、実際の現場ではベッドは空いていても設備が整っていなかったり、スタッフの数が足りずに対応できないなど、すでに限界を超えつつあるという。

 以前に比べ、新型コロナ治療は大きく進化している。江戸川病院グループでは、入院が必要な患者には、発症から10日ほどで体内に抗体が作られるまで重症化を防ぐことを基本に、いくつかの薬を組み合わせる治療が効果をあげている。

 サイトカインの暴走をコントロールしながら炎症を抑えるリウマチ薬のトシリズマブ、抗ウイルス薬のレムデシビル、過剰な免疫反応を抑制するリウマチ薬のバリシチニブを併用しながら、血栓の形成によって起こる合併症を予防するため抗凝固薬も使われる。

「さらに、抗原定量検査でウイルス量が50(ピコグラム/ミリリットル)程度に減った段階で、免疫反応や炎症を抑制するためステロイド薬の『デカドロン』(デキサメタゾン)を投与します。ステロイド薬は、体内のウイルス量が多い初期に投与するとウイルスが減るスピードが落ちるので、寛解するまでに時間がかかってしまう。ですから、ウイルス量がある程度まで少なくなった段階で使うことが重要です」

■ワクチン接種が身を守る大前提

 こうした効果的な治療が確立したことで、入院患者のほぼ全員が入院から7日ほどで後遺症なく退院して自宅に帰れるようになった。

「しかし、現在は症状がかなり悪化した状態でなければ入院できず、治療の開始も遅れてしまう。そのため体内からウイルスが消失しても、全身状態が回復して通常の生活に戻れるようになるまで時間がかかります。入院期間も10日ほどまで延びている状況です」

 入院さえできれば効果的な治療が行われ、短期間で日常生活を取り戻せるケースが増えたのだが、デルタ株による感染拡大と病床不足によって、治療の恩恵を最大限受けられない患者が多い状況なのだ。

 また、入院できない自宅待機者が増えたことで、治療を受けられないまま急変して死亡する人が増える可能性もある。そんな状況下で身を守るための大前提がワクチン接種だという。

「8月19日現在、江戸川区でハイリスクとしてリストアップされている135人のうち134人はワクチン未接種者で、平均年齢は40代後半です。1人はワクチン接種を2回終えている65歳以上の高齢者ですが、人工透析を受けていて軽い発熱があるとのことでハイリスクと判断されました。つまり、ワクチン接種を終えている健常な高齢者は、リスクの高い発症を抑えられていると考えられます」

 効果的な治療を受けられない可能性も考慮して、対策を万全にしておきたい。

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