抗体カクテル療法の現状は…いまのところコロナ治療の「切り札」とはいえない

新型コロナの抗体カクテル療法について説明を受ける菅首相=中央(右は小池知事)/
新型コロナの抗体カクテル療法について説明を受ける菅首相=中央(右は小池知事)/(C)共同通信社

 新型コロナウイルス感染症の新たな治療として「抗体カクテル療法」が期待されている。投与を行っている都内の宿泊療養施設を視察した菅首相が「重症化を何としても防いでいきたい」と言えば、東京都の小池知事も「大きな武器」と胸を張った。コロナ治療の切り札的存在とされているが、どこまで効果があるのか。コロナ患者を受け入れている東京・江戸川病院グループで臨床にあたる伊勢川拓也医師(総合診療科部長)に聞いた。

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 抗体カクテル療法は、人工的に作られた新型コロナウイルスに対する2つの中和抗体を組み合わせた点滴薬(ロナプリーブ)を投与することでウイルスの細胞内への侵入を阻止して増殖を抑制し、重症化を防ぐ。海外の臨床試験では、入院や死亡のリスクを約70%減らす効果が確認されている。日本では7月19日に厚労省が特例承認し、入院患者だけでなく医師が対応できる宿泊療養施設での使用も認められるようになった。

「抗体カクテル療法は、軽症の患者さんが重症化するのを防ぐ目的で行われます。これまで重症化リスクのある21人に発症から3~7日目までに投与し、20人が重症化せずに寛解しています。1人は症状が悪化したため、レムデシビルによる治療に切り替えました。鼻咽頭のウイルス量を計測する抗原定量検査では、抗体カクテル(ロナプリーブ)を投与してもウイルス量は減らない症例もありました。新型コロナウイルス感染症は発症から10日ほどで体内に自身の抗体が作られ回復していきます。抗体カクテルは、投与してすぐに症状が軽快するわけではなく、あくまでも重症化を防ぐものです。その点では『当施設での投与成績では効果があった』といえます」

■感染が増えている若年層には使えない

 新型コロナウイルス、とりわけデルタ株は基礎疾患がない人でも急激に悪化して亡くなるケースが報告されている。軽い発熱や咳といった軽症のうちに重症化するのを防ぐ効果があるのは前進といえるだろう。しかし、コロナ治療の切り札といえるほど劇的なものではないのも事実だ。

「抗体カクテルは発症から7日以内に点滴で投与しなければなりません。8日目以降では有効性を示すデータがないためです。海外では外来による投与が前提になっているのも、発症から早い段階で実施する必要があるからです。しかし、日本では基本的に入院での投与です。厚労省は外来でも使用できるよう検討していますが、投与してから数時間、容体をフォローできる施設に限られます。開業医や小規模な医療機関では実質的に不可能です。現在、コロナ患者を受け入れている医療機関の多くは、重症患者の入院で手いっぱいですから、軽症の患者さんに広く投与されるまでには時間がかかるでしょう。さらに、抗体カクテル療法の対象になる患者さんは、①50歳以上②50歳未満で基礎疾患がある人③酸素投与の必要がない人、とかなり限定されています。現時点では、感染が増えている若年層にはほぼ使えないのです」

 また、副作用についてもまだはっきりしていない。海外の治験では、投与を受けた4206人のうち10人に発熱、呼吸困難、酸素飽和度低下、悪寒、不整脈、胸痛、脱力、頭痛、じんましんなどの症状が確認され、アナフィラキシーを起こした例も報告されている。

 さらに、抗体製剤は精製に手間がかかり大量生産が難しいため薬価が高額になる。今回の抗体カクテル療法は1回でおよそ25万円とみられているだけに、投与の対象がどこまで拡大されるかは未知数だ。

 現状では、抗体カクテル療法はコロナ治療の決定打とはいえないだろう。

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