動物の嗅覚を利用してがんを早期発見する取り組みが広がっています。そのひとつは犬で、もうひとつは線虫です。どちらも尿のニオイを嗅ぎ分けて、15種類のがんの早期発見に結びつけようというもので、一般向けに提供されています。ご存じの方もいるでしょう。
そんな中、SNSの投稿が話題です。
「家族3人ともがんのリスクは検出されませんでした!!」
線虫での検査結果の用紙とともに喜びを語ったのはタレントのDJ KOOさん。今年還暦ですから検査を受ける気持ちをもつのはとてもいいことで、「健康第一、早期発見」と結んでいるのはもっともです。
しかし、見逃せないのが、「自宅にいながら健康診断よりラクに精密がん検査」という一文。実はこの線虫の検査を巡っては、私も数多くの相談を受けているのです。
この検査で陽性になると、報告書には「専門医による検査、診断を受けることをお勧めします」という項目にレ点がつきます。検査を受けた人は心配して、相談に来られるわけですが、どのがんのリスクが高いか示されていません。
一般にがんのセカンドオピニオンは、患者さんの指名を受けた医師が、がんの診断書のほか画像データ、血液検査結果などを総合して、診断や治療法などについて判断し、アドバイスをします。診断結果も検査データもなければ、判断のしようがありません。改めて全身のがんの可能性を想定し、検査で見つけるしかないことを説明するのみです。犬の場合も同様です。
一方、乳がんで手術をされる予定で相談に来られた方は、直前の線虫検査で「今回の検査ではがんリスクは検出されませんでしたが、今後も定期検診を継続しましょう」にレ点がありました。つまり、陰性で見落としです。
感度とは、陽性の人を正しく陽性と判定する割合で、特異度は陰性の人を正しく陰性とする割合です。線虫の場合、感度は86%で、特異度は90%といいますから、数値は悪くありません。しかし、上述したような状況で不安があります。
手軽な検査という点では、血液1滴で13種類のがんの早期発見につなげるマイクロRNAが有望でしょう。感度と特異度は、乳がん97%・92%、卵巣がん99%・100%、すい臓がん98%・94%、大腸がん99%・89%、膀胱がん97%・99%、前立腺がん96%・93%といった具合でとても高い。一部の医療機関では、自費で受診できます。
これらは“夢の検査”かもしれませんが、真の有効性を評価するには、がんの死亡率を下げるというデータが必要です。そのためには10年以上の月日がかかるでしょう。そのエビデンスが蓄積されるまでは、“夢の検査”を過信せず、すでに有効性が担保されているがん検診をしっかりと受けることが大切です。