仕事の後に飲むビール、最高ですよね。自分へのご褒美も兼ねてグビグビと飲めば、何とも言えない多幸感に包まれ、気持ちが落ち着くものです。古来、「酒は百薬の長」と言われるように、先人たちもお酒の有効性を肌身に感じていたのでしょう。
なんでもこの言葉は、漢書によれば紀元前からある言葉として登場し、「塩は食べ物のなかで最も重要。酒はどんな薬より効果がある上に宴会には欠かせない。鉄は農業に必要なものの基本」と書かれていたとか。古今東西、お酒の魅力は変わらないのでしょう。興味深いことに、この「酒は百薬の長」に関連する科学的根拠もいくつか存在するのです。
例えば、グラーツ大学のベネデックらが70人を対象に行った実験(2017年)の中に、「飲まないときに創造力が低かった人が、アルコールを摂取すると創造力が特に高まった」という報告があります。
男性40人を、アルコールを摂取したグループと摂取していないグループに分けて、缶ビール1本分程度を飲んだ後に、実務遂行力や創造性を測定するテストをしてもらい、そのスコアを比較。すると創造性において、飲んだグループが飲んでいないグループよりもスコアが高かったそうです。
通常、脳のワーキングメモリーは必要な情報と必要ではない情報を取捨選択しています。アルコールを摂取するとその働きが鈍って、普段は捨てられてしまう情報が拾われるようになるため、これまでになかったような情報の組み合わせ、つまり新しい考えが得られるといわれています。ほどよいアルコール摂取(缶ビール1~2本くらい)は、クリエーティブ能力を高めるというわけです。
ただし、やけ酒は厳禁。イヤな出来事があると、それを忘れるためについついアルコールに頼りたくなりますが、実はこれ、逆効果なのです。これを裏付けるのが、東京大学大学院薬学系研究所の野村・松木の「やけ酒をするとイヤな記憶や気持ちがかえって強くなる」という研究結果(2008年)です。
お酒を飲むと楽しくなって気持ちもふわふわしてきますが、飲み続けるとそうとは限りません。研究では、ネズミに電気ショックを与え、アルコールを注射し、どういう行動になるかを調べました。すると、ネズミは電気ショックについて忘れるどころか、電気ショックの恐怖を強め、臆病になってしまった……。つまりイヤな記憶が強化されてしまったのです。
さらに、アメリカ国立衛生研究所のホームズらの研究結果(2012年)によると、「アルコールを常習するとイヤな記憶を消す能力が下がる」ともいわれています。先の研究と合わせると、イヤな記憶が強化され、消却することも困難になるわけですから、“やけ酒はダメ酒”になってしまうのです。
ストレスから逃れるためにお酒を飲む行為は、自分を苦しめるだけで逆効果。お酒は“逃げる”ためのものではなく“たしなむ”もの。ほどよく楽しむことこそ、酒を百薬の長にするポイントですよ。
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