なぜいま新型コロナウイルスの空気感染対策が必要なのか? 初冬の豪州ではすれ違い感染が

ワクチン完了者もマスクは必要
ワクチン完了者もマスクは必要(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症が流行して1年半。この間、手探りだった新型コロナウイルス感染症の常識と対策が新たな知見が積み重なることで、変わりつつある。そのひとつが感染経路。濃厚接触者による接触感染が一般的とされてきたが、いまはエアロゾルを介した空気感染を重視し、その対策に注力すべきとの声が上がっている。弘邦医院の林雅之院長に聞いた。

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「これから寒くなるにしたがって空気が乾燥します。すると感染者から吐き出された飛沫は、生きたウイルスの周りの水分を蒸発させて飛沫核となり、空気中を長く漂うようになります。しかもそのウイルスはデルタ株のように従来株に比べて感染力が強い変異株です。少ない量でもそれを吸い込めば肺の奥まで届き、感染し重症化するリスクが高くなる。ですから今後はエアロゾルを介した空気感染に注意する必要があります」

 エアロゾルとは空気に漂う粒子のことを言い、直径5マイクロメートル(0.005ミリメートル)より大きいのを飛沫、小さいのを飛沫核という。

 飛沫はすぐに落ちるため、1~2メートルしか飛ばない。一方、飛沫核は空気中に浮遊して遠くまで飛ぶ。世界保健機関(WHO)や感染症学の定義では飛沫感染は「粒径5マイクロメートルより大きい液滴状による感染」であり、空気感染は「飛沫から水分が蒸発して生成する粒径5マイクロメートルより小さい粒子による感染」である。

 この区分に従えば、空気感染はすべてエアロゾルを介した感染となる。

「これまでは生きたウイルスが多数含まれる飛沫がくしゃみなどで吐き出され、それがテーブルやドアノブ、紙幣などに付着し、それを触れた手で口元や鼻などに触ることで感染すると考え、飛沫感染や接触感染の対策が中心となってきました。ところが、多くの人が素手で触れる紙幣を扱う銀行でクラスターが発生したとの話は聞かないし、ドアノブから感染者が多数発生したとの話も聞かない。むしろ、最近は野外音楽フェスティバルやバーベキューなどオープンスペースでの集団クラスターが増えていて、検疫のための宿泊施設で、お互いに面識がない人の間で感染が拡大したり、公共交通機関の中で遠く席が離れた人が感染したりした例が報告されている。感染経路の主役は接触感染でなく、エアロゾルを介した空気感染ではないか、との声が上がっているのです」

 実際、欧米からは「接触感染はマレ」との論説も目立ち、日本国内の感染症の専門家や医師ら32人が賛同者として名を連ねた「最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明」では、「空気感染が主な感染経路」という前提でさらなる対策を求める声が上がっている。

「ワクチンを2度接種した人はこの先、行動緩和が許されることになるでしょうが、ブレークスルー感染が増えていることを考えれば油断は禁物です。とくに心配なのは空気が乾燥する冬場の空気感染です。豪州では初冬にあたる、今年の6月中旬にシドニーの大型ショッピングセンターですれ違った2人が感染したことが明らかになっています」

■マスクは気密性の高い不織布を

 では何から始めればいいのか? まずは換気だ。

「室内外の温度が異なる冬なら部屋の窓を5センチほど開けることで、換気ができます。暖かい空気が外に出て、冷たい空気が部屋に流れ込むからです。しかし、いまは1時間に2回、窓を大きく開けるだけでは空気の流れができず不十分な場合がある。可能なら扇風機などで室内の空気を外に出すといいでしょう」

 ただし、寒い時季に暖かい部屋にいるのに窓を開けるのは嫌だという人もいるだろう。ならば、いまから熱交換換気装置の設置を検討するのもいい。外気を室内の温度に近づけてから取り入れるので、熱を捨てずに新鮮な空気を入れられて、汚れた空気だけ排気することが可能となる。

 小型の空気清浄機は周囲の空気をきれいにするだけになりかねない。その場合は扇風機やサーキュレーターで空気の流れをつくることが必要だ。

 ちなみにウイルスは人がいなくなった部屋にしばらく浮遊している可能性もある。換気は人がいなくなっても5分ほど続けた方がいい。

 マスクの重要性を再認識することも大切だ。

「いまはマスクをマナーとして着用している人が多いが、素材は隙間の少ない不織布で密着性の高い着け方をしましょう」

 ウレタンマスクは単体で使うには機能が不十分。息が苦しいからと鼻出しするのも問題だ。隙間だらけのフェースシールドやマウスシールドがマスク代わりになることはない。車に複数で乗るときはカーエアコンを外気導入にしてマスクをすることだ。

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