ワクチン接種と治療法の整備が進み、重症化での入院や死亡が減っている=新型コロナ最前線

重症患者は減っている
重症患者は減っている(C)共同通信社

 全国的に新型コロナウイルスの新規感染者数が減少し、重症者の数も日に日に減っている。要因はいくつか指摘されているが、ワクチン接種の効果に加え、治療法がさらに整備された点も見逃せない。新型コロナ患者を受け入れている江戸川病院グループ(東京・江戸川区)で治療にあたる伊勢川拓也医師(総合診療科部長)に詳しく聞いた。

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 江戸川区では、PCR検査で陽性が判明した人のうち、基礎疾患を抱えていたり、高熱などの症状がある人を「重症化の危険があるハイリスク患者」としてリストアップしている。そうした患者には、酸素飽和度を測るパルスオキシメーターを配布して経過を観察し、39度近い高熱が5日以上続いていたり、酸素飽和度が95%を下回るような患者が入院の対象になっている。

 デルタ株が猛威を振るった8月はハイリスクとされる患者がそれまでの30人程度から、130人を超えるまで急増した。

 ただ、入院対象はベッド数の不足などから絞られ、酸素飽和度が90%程度まで下回るなど「すぐに入院しなければ死亡するリスクが高い」と保健所から判断されたケースに限られていた。

「しかし、感染がピークアウトした9月22日時点では、ハイリスクとされている感染者は5人まで減っています。そのため今はリストアップされた時点で入院対象になります。リストアップされていなかった感染者が自宅療養中に症状が進み、飛び込みで受診して入院になるケースを含めても、当院に入院される患者さんは1日に1人か2人程度と減少傾向です。ワクチン接種後の感染者がハイリスク患者としてリストアップされることもありますが、酸素投与は必要とせず寛解されています。一部、ワクチン接種後に感染して隔離目的で入院された方はいましたが、呼吸状態は悪化せず、速やかに退院されていたことを考えても、ワクチンの効果は明らかです」

■抗体カクテル療法も効果大

 抗体カクテル療法(ロナプリーブ)の適用条件は、①50歳以上②50歳未満で基礎疾患がある人③酸素投与の必要がない人で、該当する入院患者に実施されている。

「これまで江戸川区内で70人以上にロナプリーブ投与を行い、再入院になった患者さんは1人だけしかいません。それも、退院して数日後に気持ち悪くなったと訴えて再入院となったケースで、肺炎症状が悪化したわけではありません。ロナプリーブは投与してすぐに効果が出るわけではなく長くて5日くらいかけて良くなっていきます。今後は入院ではなく往診でも投与できるような方向に進んでいます。ただし、投与数時間後に酸素飽和度が下がる患者さんが一定数いるので、まだ基本的には入院による投与が中心になるかもしれません」

 酸素飽和度が95%を下回るなど低酸素血症を来している中等症~重症の入院患者の治療は、従来と同じく、サイトカインの暴走をコントロールしながら炎症を抑えるリウマチ治療薬の「トシリズマブ」(一般名)の投与が行われ、さらに抗ウイルス薬の「レムデシビル」(同)と、過剰な免疫反応を抑えるリウマチ治療薬の「バリシチニブ」(同)を使用する。

 米国の研究報告などから、今後はトシリズマブかバリシチニブのどちらか一方を投与するケースが主流になる可能性もあるというが、江戸川病院グループでは現時点で3剤が投与されている。これに加え、血栓の形成によって起こる合併症を予防するために抗凝固薬が使われる。

「さらに、抗原定量検査でウイルス量が50(ピコグラム・パー/ミリリットル)程度に減った段階で、免疫反応や炎症を抑制するステロイド薬の『デキサメタゾン』(同)を投与します。ウイルスが多い初期に使うと、ウイルスが減るスピードが落ちてしまうので、ウイルス量が減った段階で使うことが重要です」

 ワクチン接種と治療法の整備によって、重症化して入院したり、死亡する患者は大幅に減ってきている。

 今冬に予想されている第6波を乗り切るためにも、「ワクチン接種は大前提」だという。

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