最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

在宅医療が病院と大きく違うのは、コミュニケーションの多さ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「在宅医療」と「病院」にはいろいろ違いがありますが、中でも特に際立っているのが、患者さん側と医療スタッフ側とのコミュニケーション(会話)の多さです。

 しかもそれは、私たちから患者さん側に伝える病状や今後の見通しといった療養や実務に関する説明事項にとどまらず、患者さんからもたくさんのお話を伺います。

 これが病院ならば、忙しく立ち回る医師や看護師と長話をすることは、つい気後れしがち。しかし、在宅医療の場合は大丈夫です。

 そのため患者さんから病気に関する素朴な質問をはじめ、時に余命時期といった普通なら深刻過ぎて言葉を濁すような内容についても、普通に会話の中でやりとりすることがあります。特に私たちと患者さん、ご家族との間で十分な信頼関係が出来上がっている場合には、笑顔を交えながら、和やかにお話しするケースも少なくありません。

 患者さん自身が雑談の中などで自分の人生を振り返り、ご家族も初めて聞くような心に残る思い出や、場合によっては悔恨の思いを披露されることもあります。そんな時はいつも共感し、励まし、一緒に笑い、時間を共有するように努めています。それはその会話が不安やこだわりの心を溶かし、患者さんの心を整える効果があると信じているからです。

 在宅医療をスタートさせておおよそ1年半後、老衰で静かに旅立たれた96歳の男性。その方は、妻と2人暮らし。実直で寡黙な元銀行マンでした。

 療養中は、社交的でおしゃべりが大好きな明るい性格の奥さまと、私たちの会話を常にニコニコしながら聞いていた旦那さん。

 そんな奥さまから少しずつ伺った話によると、旦那さんは6人兄弟の長男でしたが、本人が大学生の時にお父さまが亡くなり、兄弟の親代わりとなって弟たちの面倒を見たそうです。本人が奥さまと結婚した時には、一番下の弟さんが中学生だったとか。

 奥さまとは銀行員時代の職場で出会ったということですが、当時は銀座店に転勤になっており、デートはもっぱら銀座だったとか。

 奥さまは女子校育ちで、男性と話すのはドキドキだったけど、嫁いだ時に家に兄弟がいっぱいいて楽しかったと、懐かしそうに旦那さんとのなれ初めを話されていました。

 そんな奥さまが旦那さんが旅立たれた後、しばらくして私たちに語った言葉が印象的でした。

「パパはしっかりした人だった。お付き合いして結婚を申し込んでくれてうれしかった。パパ、私のこと、お嫁さんにしてくれたの。だから後をついていくの。パパが待っているから。心配しないでね。もうちょっと私も頑張るから」

 在宅医療での「会話」は患者さんだけでなく、ご家族の心も養い整えるのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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