新型コロナ治療で使われるステロイド薬は早期に使うと逆効果 医師が解説

ステロイド薬のデキサメタゾン
ステロイド薬のデキサメタゾン(C)Cadu Rolim/Fotoarena via ZUMA Press/共同通信イメージズ

 新型コロナウイルス感染症の新たな治療薬「ソトロビマブ」が登場した。これで、コロナ治療での使用が承認された薬は5種類となり、選択肢がさらに広がったといえる。その一方、これまで使用されてきたステロイド薬について、投与のタイミングを誤ると逆に悪化させる懸念が指摘されている。新型コロナ患者を受け入れている東京・江戸川病院グループで臨床にあたる伊勢川拓也医師(総合診療科部長)に聞いた。

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 現在、新型コロナウイルス感染症の治療での使用を承認されている薬は5種類ある。そのうち、「レムデシビル」(抗ウイルス薬/エボラ出血熱)、「バリシチニブ」(分子標的薬/関節リウマチ)、「デキサメタゾン」(ステロイド薬/重症感染症・間質性肺炎)は、いずれも重症・中等症の患者が対象だ。

 抗体カクテル療法で使われる「ロナプリーブ」は軽症者用で、発症から7日以内に新型コロナウイルスの働きを抑える2種類の中和抗体を点滴で投与する。重症化リスクが高い50歳以上や基礎疾患がある人で、酸素の投与が必要ない患者に使われる。

 今回、特例承認された「ソトロビマブ」も同じく中和抗体を点滴投与する。対象は55歳以上で重症化リスクが高く、酸素投与を必要としない軽症または中等症の患者で、軽症者に使用できる2つ目の治療薬になる。まだ臨床現場では使用が始まっていないというが、海外の治験では、入院や死亡のリスクを79%減らす効果が確認されている。

「新型コロナウイルス感染症は、発症から約10日で体内に抗体がつくられることにより回復していきます。そのため、抗体ができるまでの間にいかに重症化を防ぐかが重要です。今回の承認で治療薬の選択肢が増えたことで、重症化する患者さんをさらに減らせることが期待できます」

■自宅療養でも服用できるが…

 こうした重症化を防ぐために使われる治療薬が出揃いつつある中、使い方についてあらためて注意喚起されているのがステロイド薬のデキサメタゾン(デカドロン=写真)だ。前述のように、肺炎が悪化して酸素投与が必要な「中等症Ⅱ」や、人工呼吸器をつけるような「重症」の患者に使用される。

「デキサメタゾンは、もともと重症感染症や間質性肺炎の治療に使われている薬で、過剰な免疫反応や炎症を抑制する作用があります。新型コロナ感染症で重症化した患者の死亡率を下げることが報告されていますが、一部の医療機関では、治療早期から使われるケースがありました。ただ、ステロイド薬は免疫反応を抑える働きがあるため、最近になって、体内のウイルス量が多い初期に投与するとウイルスが減るスピードが落ちてしまうことがわかってきました。そのため、ウイルス量がある程度まで少なくなった段階で使わないと、逆に症状を悪化させてしまう危険があるのです」

 実際、千葉大学の研究チームは「ステロイド薬を抗ウイルス薬より先行して使用すると、呼吸状態が悪化する可能性がある」という研究を米科学誌に報告している。

「初期にステロイド薬を使うとコロナウイルスが検出されなくなるまで15~20日ほどかかり、回復が遅れてなかなか退院できなかったり、自宅療養に切り替えられず転院を余儀なくされるケースが多く見られます。当院では、抗原量を計測してウイルス量が50ピコグラム/ミリリットル程度に減った段階でステロイド薬を投与しています。一般的にウイルス量が減る発症7~10日目でも、ウイルス量が多い患者さんがいるためです。ウイルス量の減少を検査できちんと確認してから投与することによって、平均の入院期間が5日と半分以下になり、ほぼ全員が目立った後遺症なく社会復帰されています」

 現在、厚労省は自宅療養中のコロナ患者の症状悪化に備え、ステロイド薬を在宅で服用できるようにしている。しかし、これが逆効果になる懸念も指摘されている。

「コロナの自宅療養者が増えた時期から、東京都は『ファストドクター』などの医師派遣会社と提携し、往診医を増やしていますが、新型コロナウイルス感染症の治療経験があり、病態に理解のある医師は非常に限られています。患者さんの安全や安心を守る意味で意義のある体制ですが、一部ではとくに注意することなく急変に備えて早めにステロイド薬を出す医師がいることが問題視されています。ウイルス量が多い初期にステロイド薬を服用すると、かえって悪化させる恐れがあることをあらためて周知するべきです」

 万一に備え、コロナ治療薬について確認しておきたい。

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