病気を近づけない体のメンテナンス

腎臓<下>腎臓を守るために必要な運動強度とメニュー 筑波大医学部教授が解説

エスカレーターよりも階段を使うようにする
エスカレーターよりも階段を使うようにする

 生活習慣病などによって、いったん下がった腎機能は、残念ながら元には戻らない。しかし、放置すれば、腎機能はどんどん低下する。それを食い止めるためには、食生活の改善と適度な運動習慣が大切になる。以前は、運動は腎臓に負担をかけるとされ、腎臓病の人には積極的に勧められていなかった。しかし現在は、適度な運動が腎臓のろ過機能を向上させたり、タンパク尿(慢性腎臓病の診断項目のひとつ)を改善させたりする効果が注目されている。

 では、腎臓を守る適度な運動とは、どんな運動になるのか。筑波大学医学医療系・腎臓内科学の山縣邦弘教授が言う。

「これまで運動習慣がない人が突然、きつい運動を始めても長続きしません。また慢性腎臓病があると、脳卒中や心筋梗塞を発症するケースが多いことが知られ、まずは血圧の管理、血糖や脂質異常症の管理が適切に行われていることが大前提です。その上で適度な運動をコツコツ継続することで、少しずつ腎機能を悪化させる危険因子を運動によって改善させ、効果が表れてくるのです。そのためには『楽なこと』から始めてみましょう。たとえば、駅や会社ではエスカレーターやエレベーターを使わず、階段を使うようにする。昼食を買いにいくときも、少し遠くのコンビニまで足を延ばすなど。そして、体を動かすことに慣れてきたら、『ややきつい』ところまでレベルを上げていけばいいのです」

 つまり、【レベル1】として、生活の中でなるべく歩く機会を増やす。【レベル2】では「1日30分歩く」など、目標を決めて歩く。【レベル3】では、週末などにスポーツを始める……といった具合に、無理のない範囲で徐々に運動レベルを上げながら、運動習慣を身につけていくのだ。

 そして継続のためには「楽しいこと」も重要で、家族や友人など仲間と運動することも意識するといい。

 いきなり「きつい」と感じる運動はNG。勧められるのは、「楽」から「ややきつい」と感じる程度の運動。運動・活動の強さは「METs(メッツ)」という単位で表すことができる。安静時の状態を「1メッツ」として、腎機能改善には「5~6メッツ」の運動が適しているという。

■運動強度の例

 3メッツ:掃除、普通歩き、ゲートボール。4メッツ:庭仕事、少し速く歩く、水中ウオーキング。5メッツ:早歩き、ダンス、ゴルフ。6メッツ:軽いジョギング、水泳(ゆっくり)。

「3~4メッツの運動は、強度は低いものの、積み重ねることで効果が期待できます。5~6メッツの有酸素運動では呼吸や脈がやや速くなり、少し汗ばんできます。これを1日30分程度行うのが理想です。ケガ予防のためにも、運動の前後には準備運動や整理運動をしっかり行ってください。体調が悪いときは、無理せず休みましょう」

 有酸素運動に慣れてきたら、「筋トレ」を加えてみるといい。ダンベルやチューブなどを使うものではなく、テレビを見ながらできる簡単なものを紹介する。これも呼吸を止めず、普段通りに呼吸をしながら行う。

■片足立ち

 椅子の背を横にして立ち、片手で椅子の背につかまって片側の膝を曲げ、足を上げる。その状態を30秒間キープする。反対側の足も同じように行う。この筋トレは、足腰の筋力を鍛えるとともに、バランス能力をアップさせる。

■つま先立ち

 ふくらはぎの筋力を鍛える筋トレ。椅子の背の後ろに立ち、背筋を伸ばして両手で椅子の背につかまり、両足のかかとを上げる。そのまま3~5秒間キープし、かかとを下ろす。これを10回繰り返す。腎臓を守るためには、日頃の健康管理も大切になる。中でも肥満管理のための「体重測定」と、朝と夜の1日2回測る「血圧測定」は欠かせない。腎臓は体液量を調整し、同時に「レニン」や「プロスタグランジン」などのホルモンを分泌して、血圧をコントロールしている。ところが加齢、脂質異常症、糖尿病、高血圧など生活習慣病のために、全身の動脈硬化が進み、腎臓の血管も傷つき、腎機能が低下する。すると、血圧をうまくコントロールできないので、さらに血圧が高くなるという悪循環を起こすのだ。

「睡眠も大切です。良好な睡眠が取れないと、高血圧、糖尿病といった生活習慣病の原因となるとともに、腎機能障害の進行が速まることが知られています」

 睡眠時間は、最低でも6~7時間は確保しよう。

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