コロナ収束への道<2>「ワクチン調達は民間の力を借りるべき」

イスラエルではブースター接種が始まっている
イスラエルではブースター接種が始まっている(C)ロイター

 主要国に比べて接種速度が遅すぎる。日本はワクチン敗戦国だ――。新型コロナワクチンの接種の開始当初は政府の対応にこんな声も上がっていた。その後、接種が進み、そうした声も少なくなってきたが、この経験を生かしてこれからの日本のワクチン対策のあり方を考えるべきではないか。

 感染症ドクターとして多くの新型コロナワクチン接種をこなしてきた「MYメディカルクリニック」(東京・渋谷)の笹倉渉院長に聞いた。

「まず大前提として、私自身はこれまでの日本のワクチン対策を評価しています。無数に及ぶ関係者たちを短期間でよく調整し、仕組みとして進めてこられたと思います。でももしかすると、より効率的な別のアプローチもあったのでは、とも考えています。私たちはインフルエンザワクチン予防接種実績があるクリニックのひとつです。少なからずワクチンの流通を理解しているという自負もあります。ですから今回の新型コロナワクチン配布で、インフルエンザワクチンの流通システムが使われなかったことは非常に残念でした。私たちにコロナワクチン接種に向けて積極的なヒアリングがあったら、接種の速度と広がりは、変わったのではないでしょうか」

 インフルエンザ予防接種は毎年10~12月の3カ月間で延べ5000万~6000万人程度接種する。国内生産されたワクチンは薬の卸業者を通じ各医療機関の注文に応じて配布される。

「新型コロナワクチンでも市場原理に基づいたこの枠組みを活用していれば、東京五輪前にも接種は完了していたかもしれません」

 しかし、残念ながら今回はインフルエンザワクチンとはまったく異なる流通方法が採用された。国が地方自治体ごとに本数を割り当て、それを自治体の判断で地元の医療機関に配布したり、独自の大規模接種会場用に振り分けた。そのため、接種希望者の多いエリアとそうでないエリアではワクチンの過不足が発生した。

 だからといって、新しい仕組みでは医療機関が必要に応じて製薬会社から買うこともできなかった。

 むろん、供給当初ではやむをえない事情もあった。新型コロナワクチンは全量海外からの輸入に頼っていたため、どのくらいの量を確保できるか不明だったこと、冷凍保存が必要など管理が難しかったこと、インフルエンザワクチンとは異なり新型コロナワクチンは無料のため感染リスクの高い医療従事者や65歳以上の優先接種が守られるか不安があったことなどだ。

 しかしワクチンの供給量が安定し、保存期間が緩和され、接種対象者が広がってからも新システムでの供給は継続された。

 しかも、このシステムを運用するために新たに導入された「V-SYS」(ワクチン接種円滑化システム)はコンピューター端末が扱いづらいとの現場の声もあった。

■より良いワクチン体制にはスピードと効率性が必要

 市場原理がまったく働かないこうした配布法の難しさとワクチンビジネスの怖さにも笹倉院長は触れる。

「最初のワクチン調達の仕方にも課題はあったと思う。COVAX(新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み)を活用したファイザーとの契約では、本来日本に来るはずの、ファイザーの倉庫に備蓄されたワクチンはイスラエルなど他国に流れてしまい、4月に当時の菅首相がファイザーと面会する事態になりました。私は日本ワクチン学会にも所属していますが、ワクチンを取り巻く環境は非常にビジネス色が強く、そんな生き馬の目を抜くような世界では、しっかりと契約にもとづく交渉が必要です」

 そのために、ワクチン獲得交渉にはワクチンビジネスに強い民間の力を借りるという選択肢についても、しっかりと専門家の声を聞き、検討すべきではなかったのか、という思いもあると笹倉院長は言う。

「ワクチンの調達と配布は、従来確立されていたスキームと市場原理に任せたほうがいい場合もあります。極端な例ですが、イスラエルがワクチンを大量に確保できたのはお金の力だとも言われています。日本も民間の力をもっと活用すべきだと思います。将来的には国産ワクチンの開発も必要です。それにはワクチンの開発、流通、ビジネスの実態をよく知るリーダーを前面に出すべきではないでしょうか」

 新型コロナはもちろん、未知のウイルスとの闘いはこれからも続く。そのときカギを握るのはスピードと効率性だ。より良いワクチン体制とは何かをいま考えるべきではないか。

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