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のど<下>のみ込み力を鍛える嚥下トレーニング 専門医が指南

写真はイメージ
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 食べ物や飲み物を「のみ込む」ことを「嚥下」という。

 この嚥下機能が衰えると、本来、食道に送られるべき食べ物や唾液が気管や肺に入る「誤嚥」を起こして、「誤嚥性肺炎」や「窒息」を起こす危険性がある。

 誤嚥を防ぐ訓練として、「パ、タ、カ、ラ」と発音するパタカラ体操や歌を歌う(発声)、おでこを押して首の筋肉を鍛えるなどの方法が紹介されている。これらの訓練は本当に効果があるのか。

のどを鍛えて誤嚥性肺炎を防ぐ! 嚥下トレーニング」(メイツユニバーサルコンテンツ)の著者で、神鋼記念病院(神戸市)耳鼻咽喉科の浦長瀬昌宏科長が言う。

「効果がないわけではありませんが、もっと効果的な方法があります。一般的に紹介されている訓練の弱点は、のみ込む動作そのものを行っていないこと。運動機能を改善させるためには、改善させたい動作を練習することが最も効果的です。この法則を『運動学習の課題特異性の原理』といいます。たとえば歩行機能を鍛えるには、歩くことが基本です。さらに階段を上ったり、坂道を歩いたりして脚の筋肉に負荷をかけると、歩行機能を高めることができます。同様に嚥下機能を効果的に鍛えるためには、力を入れてのみ込み、“嚥下筋”に負荷をかける必要があるのです」

 しかし、それは簡単ではない。「どのようにしてのみ込んでいるか」をほとんどの人が理解しておらず、意識的に力を入れてのみ込んだことがないからだ。のみ込み力を高める訓練をするには、まず人がどこの筋肉を使って、どのようにのみ込んでいるかを理解する必要がある。

 人は、「喉頭」をタイミングよく上に動かしてのみ込んでいる。「のどぼとけ」は喉頭の一部が出っ張った部分だ。のどぼとけを触りながら、水を飲み込んでみよう。飲み込む瞬間、のどぼとけが上に動くのが分かるはずだ。のどぼとけが上に動かなければ、水はのどの中に残ったままで食道には入らない。

 では、のどぼとけを上に動かす筋肉はどこにあるのか。親指で顎の先端を触り、少し奥に指の先をずらすと、骨のない軟らかい部分を触れる。そこを触りながらのみ込むと、皮膚の奥にある筋肉が硬くなるのが分かる。この筋肉が嚥下筋のひとつである「顎二腹筋=ごっくん筋」だ。人は、嚥下筋が喉頭を引っ張り上げることでのみ込んでいる。この筋肉を鍛えることができれば、嚥下機能を高めることができるというわけだ。

 嚥下動作を理解して、考えながらのみ込みを繰り返せば、力を入れてのみ込むコツが分かるようになるという。

 まず、次の5つのポイントを意識しながら何度も水を飲み込み、体の動きを覚えよう。ごっくん筋に意識的に力を入れるのを目標にする。コツがつかめない場合は、誤嚥に気をつけながら、少し多めの水を飲んでみよう。そうすると、自然とごっくん筋に力が入る。

■のみ込み方を覚える

①ごっくん筋に力を入れ、のどぼとけを上に動かす。
②顎を軽く引く。
③のどの空間をしっかり絞り込み息をこらえる。
④舌をピッタリ口の上壁(口蓋)に押し付ける。
⑤歯は軽く噛む。

 これらができれば、誤嚥せずにのみ込める。

 動作を体に覚えさせることができたら、ごっくん筋に負荷をかける訓練をする。

■ごっくん筋を鍛える

①冷たい水またはお茶を口に入れる。
②舌と口蓋の間にいったんためておく(10秒が目安)。
③ごっくん筋に力を入れてのみ込む。
④ごっくん筋に力を入れ続け、のどぼとけを上げた状態を5秒維持する。
⑤最後に勢いよく息を吐く(嚥下トレーニング協会YouTubeチャンネルの動画を参照)。

 練習回数は、どれだけごっくん筋に力を入れられているかで決める。力を入れるコツをつかめていない場合は、1日30回程度行う。

 十分に力を入れられれば、1日1回でもいい。少し疲れる程度を目標にしよう。

「老化で嚥下障害が悪化すると、そこから改善させることは困難です。なぜなら、栄養不足によって体力や理解力が急激に衰えるため、高度な訓練が不可能になるからです。嚥下障害が悪化すると、今回紹介した嚥下動作を理解したり、水を飲んで訓練したりすることはできません。老化による嚥下機能の低下はだれでも起こります。元気なうちから、練習を始めることが大切です」

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