心臓手術の名医が語るコロナ禍の治療最前線

命に関わる心臓だからこそ予防が大切 肥満を改善し動脈硬化を防ぐ

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写真はイメージ(C)PIXTA

 日本人の死因のトップは「がん」だが、1985年以降、「心臓病」は「脳血管疾患」を抜いて第2位になっている。その原因は心臓に負担のかかる生活習慣が増えているからだと考えられている。しかも新型コロナ禍による巣籠り生活はそれに拍車をかけたといわれる。何に気を付ければいいのか? ニューハート・ワタナベ国際病院の渡辺剛総長に聞いた。

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「医療の本質とは、病気を治すことだけではなく、病気に苦しむ人に、現状での最大の満足を届けることにあると確信しています。しかし、最も大事なことは病気にならないことです。とくに心臓病は命に関わる病気ですから、予防が大切です」

 心臓は1分平均で約70回、1日約10万回、休むことなく拍動している。生涯で30億回程度動き、1回の拍動で70~80mlの血液を、全身で約10万キロの長さだといわれる血管に送り出す。

 むろん、拍動の回数はいつも同じではない。子供は大人より脈拍数が少し早く、精神的緊張や運動により増える。病気で発熱したときも増え、体温が1度上がるごとに1分間の脈拍が10~20回増えると言われている。

 臨機応変にこれだけ酷使されている心臓や血管は、年齢を重ねるごとに機能が衰え、病気になるのは当然。年齢が上がるにつれて突然死の引き金となる狭心症や心筋梗塞を発症しやすくなる。

 狭心症とは心筋(心臓を動かす筋肉)に血液を送る冠動脈が動脈硬化を起こして狭窄し、心筋が酸素不足に陥る病気のこと。心筋梗塞は冠動脈が閉塞する病気を指す。狭心症と心筋梗塞を合わせて虚血性心疾患というが、平成30年の厚労省患者調査によると、その数は男性が35歳から、女性は30歳から増えている。

「その年代は心臓病を引き起こす8つのリスクが重なりやすいからです。①高コレステロール血症②高血圧③高尿酸血症④糖尿病⑤喫煙⑥肥満⑦ストレス⑧家族歴(心筋梗塞の家系)です。これらはすべて動脈硬化につながります。このうち①~⑦は新型コロナ禍の巣籠り生活でアップしたと考えられます。ここ1年の間に外来でフォローアップしている患者さんの多くは、LDLコレステロール等の悪玉コレステロール値が以上となっていることが見受けられました」

■肥満になるとなぜ動脈硬化が進むのか

 では心当たりのある人はどうしたらいいのか? まずはこれらの数値を調べるために持病のある人は病院で調べてもらうことだ。健康な人も可能なら健康診断を受けるのが良いだろう。そうしたことが難しいという場合は、体重を計り、新型コロナ前よりも重くなっているようなら体重を減らすことを目指すといい。

「そのためには、塩分、糖分、脂肪分の多い食事を避け、ウオーキングなど呼吸をしながら行なうような有酸素運動を日常生活に取り入れることが大切です。運動は無理する必要はありません。息が切れない、軽く汗をかく程度の運動を、少しでも毎日続けて肥満を解消すれば動脈硬化は防げます」

 そもそもなぜ肥満になると動脈硬化が進むのか? カギを握る要素のひとつは白色脂肪細胞だ。肥満が進んだ白色脂肪細胞からは悪玉の因子を放出するように“不良化”してホルモン分泌が異常になる。

 たとえば、動脈硬化を抑えるなどの働きがあるホルモンのアディポネクチンの分泌が減少する一方で、食欲を抑えるレプチンが効きにくくなり、血液中からブドウ糖の取り込みを抑制するTNFーαやレジスチン、血管を収縮させる物質の材料となるアンジオテンシノーゲンの分泌が増加する。

 その結果、高血糖によって血管内皮が傷ついたり、血管が収縮して細くなって血圧が上がり、血管壁を傷つけたりする。さらに、血管の素材となるコレステロールがどんどん供給されて血管内に蓄積し、それを処理するためのマクロファージの死骸も重なって堆積。血管が膨らみ本来のしなやかさを失い、急速に動脈硬化が進むことになる。

「ほかに気をつけたいのはがん患者さんです。心臓に影響を与える抗がん剤も少なくありません。がん患者さんは定期的に心臓の検査もした方がいいかもしれません」

渡辺剛

渡辺剛

1958年東京生まれ、ニューハート・ワタナベ国際病院総長。日本ロボット外科学会理事長、心臓血管外科医、ロボット外科医、心臓血管外科学者、心臓血管外科専門医、日本胸部外科学会指導医など。1984年金沢大学医学部卒業、ドイツ・ハノーファー医科大学心臓血管外科留学中に32歳で日本人最年少の心臓移植手術を執刀。1993年日本で始めて人工心肺を用いないOff-pump CABG(OPCAB)に成功。2000年に41歳で金沢大学外科学第一講座教授、2005年日本人として初めてのロボット心臓手術に成功、東京医科大学心臓外科 教授(兼任)、2011年国際医療福祉大学客員教授、2013年帝京大学客員教授。

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