心臓手術の名医が語るコロナ禍の治療最前線

いざというときに備え心臓手術を取り巻く状況を知っておきたい

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写真はイメージ(C)PIXTA

 心臓外科医の数が世界的に減少しているという。技術革新により心臓外科医に頼らなくてもできる治療法が開発されているからだ。その一方で、心臓に障害を持つ高齢者が増え、複雑な心臓外科手術を必要とするケースもいまなお多いことから、経験豊富な腕のいい心臓外科医の存在価値は高まっている。だからこそ、心臓に問題が起きやすい中高年は心臓手術に強い病院やその状況といった情報について日頃から敏感になった方がいい。心臓病手術をメーンとするニューハートワタナベ国際病院の渡辺剛総長に聞いた。

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「たしかに心臓病の代表的疾患である、心臓弁膜症手術の多くがいまは内科的なカテーテル置換術に変わり、心臓外科医の出番が減っているのは事実です。しかし、心臓の疾患の中には外科手術でしか治せないものも多い。また、複数の心臓疾患をひとつの手術で同時に治療しなければならないケースもあります。心臓外科医はその意味で絶対に必要な存在です。心臓手術をメーンとした当院は、さまざまな心臓病の治療が『ワンストップ』ででき、かつ『ラストホープ』としての存在価値を高めていくことになると思います」

 心臓病手術はかつて、救命のための手術であり、手術による傷など手術後の生活の質(QOL)については重きを置くことなく行われてきた。しかし、近年は救命は当然としてQOLを高めるさまざまな手術法が開発されており、患者はそれを選択できるようになっている。

 ニューハートワタナベ国際病院では、日帰りの心臓手術から大掛かりな開胸による心臓手術までさまざまな治療法を行っている。最近は体に優しい、低侵襲性の手術を行っている。たとえば大動脈瘤を切除して人工血管を縫い付ける人工血管置換術では、超低体温ではなく軽度低体温手術を開発し、実践している。超低体温下の人工血管置換術では脳梗塞や感染症、肺炎などのリスクが高くなるなどのデメリットがあるからだ。

 また、手術痕が少なく、体力のない患者さんでも受けられる「ダビンチ」によるロボット心臓外科手術に力を注いでおり、2019年に次いで2020年もその症例数が世界一となったという。

「若い女性などは手術痕を気にして手術法を選ぶケースは少なくありません。その意味でも心臓治療を網羅的に知り、よりベターな治療法を提示できる外科医は今後ますます必要とされるでしょう。ただし、将来的に心臓疾患を抱える高齢者の数が増えたとしても、本格的な心臓外科手術が必要な患者さんは少なくなり、より専門性の高い手術については経験豊富な一部の心臓外科医に集中するようになる。そのため若手が育ちにくく、心臓外科医の数は減っていく傾向にあります」

 だからこそ、一般の人であっても、どんな心臓外科医がいて、どこの病院に心臓手術の実績があるかを含め、心臓手術の情報について日頃から関心を寄せるべきだという。心臓を治療するためにはそれなりの医療水準を持つ医療機関を選ぶ必要があるからだ。

■手術数の減少は医師やスタッフの技量低下を招く

 そもそも心臓外科手術は、経験が豊富な名医が一人いれば成立するわけではない。手術スタッフもまた、経験豊富なプロフェッショナルでなければならない。

 実際の手術では、心臓血管外科専門医のほか、麻酔科医、体外循環技術認定士の資格を持った臨床工学技士、手術専門の看護師などがチームを組んで取り組むことになる。つまり、病院ごとの手術件数は重要で、件数が多い病院は一般的に手術技量が高いと考えられる。

「困ったことに、新型コロナの影響でここ2年間、世界的に緊急手術を除く予定心臓手術の数は大幅に減少しています。海外にいる医師仲間の中には、ここ1年間はまともにメスを握っていない、という心臓外科医も少なくありません。これは、その医師の技量が維持できなくなるだけでなく、手術チーム全体の技量が落ちることを意味しています。当院も新型コロナで入国できなくなったために海外からの患者さんは減りましたし、県境をまたいでの移動の自粛により遠方の患者さんも少なくなりました。しかし、幸いにも都内の病院からの紹介が増えたおかげで、それほど手術件数を減らさずにすんでいます」

 病院によっては、心臓手術の件数の減少がそのまま手術技量の低下につながるケースもある。患者はこうした心臓手術を取り巻く状況も知っておく必要がある。

渡辺剛

渡辺剛

1958年東京生まれ、ニューハート・ワタナベ国際病院総長。日本ロボット外科学会理事長、心臓血管外科医、ロボット外科医、心臓血管外科学者、心臓血管外科専門医、日本胸部外科学会指導医など。1984年金沢大学医学部卒業、ドイツ・ハノーファー医科大学心臓血管外科留学中に32歳で日本人最年少の心臓移植手術を執刀。1993年日本で始めて人工心肺を用いないOff-pump CABG(OPCAB)に成功。2000年に41歳で金沢大学外科学第一講座教授、2005年日本人として初めてのロボット心臓手術に成功、東京医科大学心臓外科 教授(兼任)、2011年国際医療福祉大学客員教授、2013年帝京大学客員教授。

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