血圧は低いほうが脳卒中・心筋梗塞のリスクを抑えられる アジア人対象の大規模比較試験で報告

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高血圧治療ガイドライン2019によると、高血圧患者4300万人中、治療中でコントロール良好なのは1200万人と約4分の1。高血圧の半数近くが未治療者で、高血圧と認知していない人が全体の約3割だ。それがどういうリスクを招くのか? 大阪大学大学院老年・総合内科学の楽木宏実教授に聞いた。

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「世界的に見ても、主要国の中では日本の血圧のコントロール率は悪い。主要12カ国の間で日本は下から2番目。同じアジア人である韓国が上位4位なので、人種差の問題とは言えない」

 高血圧そのものは自覚症状がほぼない。だから診断されても軽く受け止められがち。その上、生活習慣の指導が先で、薬の処方がまだない場合、「薬が出ていないから軽症/病気ではない」と考えてしまう人もいる。

 しかし、高血圧がさまざまな疾患のリスク因子になることは明らかだ。

「心筋梗塞や脳卒中といった心血管病死の突出したリスク因子であり、認知症、網膜症、心不全、大動脈瘤、動脈解離、腎臓病、人工透析のリスクを高めます」

■アジア人対象の大規模ランダム化比較試験でも報告

 15年、世界の高血圧治療を一変させる試験結果が発表された。米国が行ったSPRINT試験で、年齢を問わず積極的に血圧を下げることが心血管病を抑制するという内容だった。ただし、これは米国の人が対象。アジア人において積極的な血圧低下はどうかという課題があったが、今年、世界的な医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、中国のSTEP試験の結果が報告された。米国と同規模の大規模ランダム化比較試験で、アジア人が対象。その内容は、SPRINT試験と同様、積極的な降圧治療が心血管病を抑制するというものだった。

「アジア人においても、降圧目標値130~150㎜Hgの『標準治療群』と、より厳格な降圧目標値110~130㎜Hgの『強化治療群』では、後者の強化治療群の方が血圧がより低下。脳卒中、心筋梗塞、心不全、心房細動、心血管死などの発生率も低いとの結果が出ました」

 強化治療群では、心不全が73%、脳卒中、心筋梗塞などの急性の冠動脈疾患が33%抑制されていた。

 米国のガイドラインでは17年、SPRINT研究などの結果から、高血圧の診断基準をこれまでの140/90㎜Hgよりも低い130/80㎜Hgとし、血圧がこの数値に達した時点で治療を開始すべきと定義している。

 一方、日本では、高血圧治療ガイドライン2019が出た時点ではアジア人のデータであるSTEP試験が発表されておらず、高齢者のデータが不十分ということから、一般的な治療としては、75歳未満は診察室血圧130/80㎜Hg未満を、75歳以上は140/90㎜Hg未満を目指すこととなっている。ただし、STEP研究の対象者は60~80歳(平均年齢66歳)で、前述の通り、高齢者でも積極的な降圧治療が効果的との結果だ。

「個人的な見解ですが、年齢にかかわらず、積極的な降圧は有効。自力で外来通院できるような人なら、75歳以上でも降圧の利益と不利益のバランスを考えながら、可能ならしっかり血圧を下げた方がいいと考えています」

 冒頭で述べた通り、高血圧と認識していない人、認識しているが未治療の人が非常に多い。血圧は、家庭など診察以外でも測れる。いま一度自分の血圧が正常かどうかを、確認すべき。家庭用血圧計では、135/85㎜Hg以上だと高血圧である。「起床して1時間以内、トイレの後、朝食の前、薬を飲む前」「寝る前、食後1時間以降、入浴や飲酒直後は避ける」といった2つのタイミングが望ましい。

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